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第1章第2章第3章第4章第5章第6章第7章111ついて説明し,さらに競合リスク(competing risk)を考慮した生存時間分析について紹介します。 初めに,生存時間分析は「生存時間(survival time)」という言葉が使われているにもかかわらず,生死のみを問題とするわけではありません。コホート研究やランダム化比較試験(RCT)のアウトカムにはさまざまなものがあります。例えば,冠動脈ステント留置後の冠動脈の再狭窄や,がんの再発などがあります。生存時間分析では,各患者が研究に組み入れられてから,アウトカムが発生することなく追跡できている時間を「生存時間」と考えます。なお,アウトカムはイベント(event)やエンドポイント(endpoint)とも呼ばれます。 コホート研究やRCTでは,アウトカム発生の有無がしばしば興味の対象になります。例えば,院内死亡や30日死亡の有無はよく利用されるアウトカムです。しかし研究によっては,「アウトカムが発生するまでの時間」が興味の対象になることがあります。例えばがんの再発は,同じ「再発あり」でも1年後の再発と3年後の再発では臨床的な意義は異なります。 一般に,ある事象の発生割合(incidence proportion)と発生率(incidence rate)は明確に区別されます。例えば,5人の患者を1年間追跡した図7‒1の例において,死亡の発生割合は「3人(アウトカム発生数)÷5人(対象者の人数)=0.6(または60%)」です。一方,死亡の発生率は「3人(アウトカム発生数)÷14人年(対象者全員の延べ観察期間)≒0.21(/年)」です。この発生率は,100人を1年観察すれば平均的に21人死亡する,と解釈できます。このように,発生率とは「アウトカムが発生する平均速度」のことを表します。 ハザード(hazard)とは,「アウトカムが発生する瞬間速度」,すなわち「観察期間中のある時点までアウトカムを発生していなかった人々が,その次の瞬間にアウトカムが発生する確率」を意味します。ハザードは一般に時間と第7章 ● 生存時間分析における競合リスクモデル(1)発生率およびハザード

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