853)症例経験から臨床研究へ胸部CTにて上行・弓部・下行大動脈にStanford Aの解離を認めたため,緊急手術となった。超低体温循環停止逆行性脳循環下に上行弓部大動脈人工血管置換術を施行した。術後の循環動態は安定していたものの,呼吸状態が悪く,術後4日目に人工呼吸器から離脱した。術後14日目,正中切開創の発赤・腫脹と胸郭動揺を認めた。鑷子で創に触れると容易に哆開し,膿の排出を認めた。胸部CTを施行,縦隔炎と診断し,同日に再開胸を行った。ワイヤーを抜去し,縦隔内の感染組織のデブリードマンを可及的に行い,陰圧閉鎖療法と持続洗浄を開始した。術後22日目,排液の培養検査は陰性となり,感染はコントロールできていると判断し,大網充填術を行った。有茎の大網を挙上し,人工血管周囲の死腔に充填し,閉胸した。その後も抗菌薬の静注を継続したが,感染徴候はなく,血中CRP値は低値で安定していたため,術後41日目に独歩退院となった。喫煙者であり慢性閉塞性肺疾患の併存症を有する高齢男性です。大動脈解離に対する人工血管置換術という侵襲の大きい手術の後に呼吸状態がなかなか改善せず,それが創感染に影響を与えたのかもしれません。上記の症例経験を踏まえて,以下のCQを立案しました。CQ:胸部大動脈疾患に対する人工血管置換術後の縦隔炎のリスク因子は何か?(ⅰ)先行研究のレビュー胸骨正中切開による心臓大血管手術後の縦隔炎発症のリスク因子については多くの先行論文がありました2-5)。術前のリスク因子として,3 CQからRQへ ― 実践編
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