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唾液の分泌
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.唾液分泌のメカニズム
唾液腺は自律神経である交感神経と副交感神経の二重支配を受けるが,唾液腺
の自律神経支配は拮抗支配ではなく,いずれも唾液分泌が促進される。自律神経
の最高中枢は視床下部にある。唾液分泌を促進する刺激は主に味覚で,求心路は
脳神経の顔面神経(Ⅶ)と舌咽神経(Ⅸ)を経て,延髄の孤束核に入力する。舌下
腺と顎下腺への副交感神経の遠心路は顔面神経,耳下腺の遠心路は舌咽神経に由
来する。
(1)交感神経・副交感神経
(図1)
①交感神経
交感神経は胸髄,腰髄の側角に存在する細胞体から前根を通って末梢に分布す
る。交感神経終末からノルアドレナリン(NA)が分泌され,腺房細胞の基底側膜
のアドレナリン受容体に結合すると,ムチンなどの唾液タンパク質が分泌される。
②副交感神経
副交感神経は,中脳,橋・延髄,仙髄から発し,末梢に分布する。副交感神経
終末から神経伝達物質のアセチルコリン(ACh)が分泌される。アセチルコリン
が腺房細胞の基底側膜のムスカリン受容体に結合すると,血漿中の水が唾液成分
として分泌される。
(2)水分の分泌
(図2)
アセチルコリンがムスカリン受容体と結合すると,受容体に結合しているGq
タンパクがホスホリパーゼCを活性化する。ホスホリパーゼCはリン脂質の一
つであるホスファチジルイノシトール4, 5-二リン酸(PIP
2
)を分解する。その結
果,脂質であるジアシルグリセロール(DAG)と糖質であるイノシトール
1, 4, 5-三リン酸(IP
3
)が生じる。IP
3
が細胞内の小胞体上IP
3
受容体に作用すると,
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唾液の基礎知識
第
Ⅰ
章