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泌尿器
総論
総 論
A.尿路の解剖・病理
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解剖
組織学的に腎は糸球体と間質,腎杯・腎盂系に大別される。間質には尿細管と血管が含まれ
る。尿細管上皮は立方状で,腎不全時には剥離し,尿中に出現することがある。尿路を被覆す
る上皮は移行上皮に分類されていたが,最近では尿路上皮と呼ばれている。腎盂から尿管,膀
胱および前立腺部尿道の一部を覆っている。これらは粘膜固有層,粘膜筋板,粘膜下層,筋層,
および周囲脂肪織からなる。膀胱には漿膜(腹膜)を有する部分があるが,筋層の下層は「膀胱
周囲脂肪織」である。腎盂や尿道では筋層の発育は貧である。膀胱では粘膜筋板がときに肥厚
しており,TUR標本では粘膜筋板と筋層の区別が困難な場合がある。
前立腺は腺上皮が主成分であるが,機能解剖学的には,辺縁域,中心域,移行域の3領域に
分けられる。辺縁域は前立腺癌が,移行域には肥大症が好発する。
尿道は上部を除き,扁平上皮で覆われている。精巣は精細管の集合体で,管内に胚細胞と
Sertoli細胞が,間質にはLeydig細胞が存在し,テストステロンを産生している。
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病理学的事項
a.腎
腎に発生する腫瘍では腎細胞癌が大多数を占める。いくつかの亜型が存在するが淡明細胞癌
が約80%と最頻である。主な亜型には,多房嚢胞性腎細胞癌(multilocular clear cell renal cell
carcinoma),乳頭状腎細胞癌(papillary renal cell carcinoma),嫌色素性腎細胞癌(chromophobe
renal cell carcinoma),集合管癌(Bellini管癌,carcinoma of the collecting ducts of Bellini)が
みられる。良性腫瘍として血管筋脂肪腫,オンコサイトーマ,後腎性腺腫がある。腎細胞癌に
はいくつかの亜型が存在し,組織像は多彩である。小児では腎芽腫がみられる。
b.尿路
尿路に発生する腫瘍としては尿路上皮癌が圧倒的に多い。尿路上皮癌の特殊型としては,扁
平上皮への分化を伴う尿路上皮癌,腺上皮への分化を伴う尿路上皮癌,栄養膜細胞への分化を
伴う尿路上皮癌,微小濾胞型,微小乳頭型等,11タイプがある。尿路上皮癌以外には,扁平
上皮癌(亜型として疣贅癌を含む),腺癌(亜型として腸亜型,粘液亜型,印環細胞亜型,明細
胞亜型),これ以外に尿膜管癌,神経内分泌腫瘍(傍神経節腫,カルチノイド,小細胞癌),そ
の他がある。高分化型の尿路上皮癌は結合性が保持されており,尿中に剥離・離脱する頻度が
低く,自然尿の細胞診の感度はさほど高くはない。非腫瘍性病変には過形成,化生,増殖性膀
胱炎等がある。また,ウィルス感染によりデコイ細胞が尿中に出現することがある。
c.前立腺
前立腺の病変としては前立腺癌と前立腺肥大症が二大疾患である。生検器具が改良され前立
腺針生検が普及し,Gleason分類を評価できない穿刺吸引細胞診は激減した。尿細胞診標本に