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50多くの比較試験,観察研究の結果を踏まえて,海外のガイドラインでCRS+HIPECが記載されるようになった。欧州臨床腫瘍学会ガイドライン(2016年)やNCCNガイドライン(2019年)で,経験のある施設において完全切除が期待できる限られた腹膜播種症例でCRS+HIPECを考慮できると記載されている11, 12)。本邦の『大腸癌治療ガイドライン 医師用 2019年版』では,「限局性播種(P1, P2)に対して,過大侵襲とならない切除であれば,原発巣と同時に腹膜播種を切除することを強く推奨する」と切除の有用性が示されているが,CRS+HIPECについては「本邦においてはほとんど治療実績を有しない療法であるため,一般の医療機関で実施できるものではない」と記載されている13)。CRS+HIPECの有効性を検証した唯一のランダム化比較試験である,Verwaalらの論文では,CRS+HIPECと術後化学療法,化学療法のみの生存期間中央値はそれぞれ22.3カ月,12.6カ月と有意差を認めた14)。大腸癌腹膜播種に対するCRS+HIPECで最も強い予後因子は完全切除とPCIである。Chuaらによるメタアナリシスでは,CRS+HIPECを行っても完全切除が得られなければ,むしろ姑息切除と全身化学療法に劣る結果が示された15)。Goéréらは,PCI>17の症例は完全切除が得られても非治癒切除と全生存率が変わらないことから,CRS+HIPECの適応から除外した方がよいと報告している16)。Faronらは,PCIと全生存率が線的な関連があり,最もよい適応はPCI<12であることを示した17)。本邦においても,Yonemuraらが大腸癌腹膜播種に対してCRS+HIPECを施行した291例のうち,CC-0が達成できた69例では全生存期間3.1年と極めて良好な長期成績が得られていることを報告している18)。PRODIGE 7は,大腸癌腹膜播種治療におけるHIPEC単独の効果を検証した初めてのランダム化比較試験である19)。大腸癌腹膜播種に対してCRSを行いCC-0/1が得られた267症例を,HIPECを行う群と行わない群に無作為に割り付け,HIPECはオキサリプラチンが用いられた。HIPEC群,non-HIPEC群の全生存期間はそれぞれ41.7カ月,41.2カ月と差を認めなかったが,サブグループ解析でPCI=11〜15の症例においてHIPEC群で生存期間が長かった。この試験に対して,「1)組織型を選択していない」,「2)PCI>17症例を含める」,「3)生物学的特性(RAS/BRAF)を考慮していない」,「4)HIPECの方法(薬剤,時間,温度)が適切でない」などの理由から,大腸癌に対するHIPECの評価はまだ定まっていない。しかし,同様に,再発高危険群に対して予防的なHIPECやHIPECを含むsecond-look surgeryの予後改善効果を検証したCOLOPEC試験,PROPHYLOCHIP試験はいずれも有効性を示すことができなかった20, 21)。これらの結果は,PCIが0または低い大腸癌腹膜播種に対してHIPECは有効性が低いことを示唆している。腹膜偽粘液種に対する治療は,症状緩和目的の減量手術(debulking surgery)が主であったが,SugarbakerがCRS+HIPECの適応を提唱して以来,この治療法が専門施設で根治的治療として広く行われるようになった。低悪性度の腹膜偽粘液種であればdebulking surgeryだけでも10年生存率70%と報告されているが,90%以上が2〜3年以内に再発し,再切除を繰り返すたびに徐々に切除は困難となる22)。Sugarbakerらはこれら2つの治療法の長期予後を比較して,20年生存率が1)大腸癌腹膜播種2)腹膜偽粘液腫

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