Ⅱ婦人科腫瘍(卵巣・卵管・腹膜)第 章7A.上皮性腫瘍 epithelial tumors「卵巣がん」とひらがな表記された場合には胚細胞腫瘍なども含めた卵巣悪性腫瘍全般を指すことになるが,小児期を除くとその多く(92%,p390 参照)が癌腫,すなわち上皮性腫瘍である。この上皮性腫瘍は『卵巣腫瘍・卵管癌・腹膜癌取扱い規約 病理編 第 2 版』では本章Ⅰの表 2(p391参照)のごとく細分類されている 1)。この分類は WHO 分類第 5 版 2)に準拠している。しかしこのなかだけでも極めて多くの腫瘍があり,理解を助けるために「上皮性腫瘍に共通する所見」が取扱い規約の上皮性腫瘍の項,冒頭に記載されている。悪性度の分類には良性,悪性に加えて境界悪性腫瘍がある。境界悪性腫瘍は「上皮の旺盛な増殖を示すものの微小浸潤をこえる間質浸潤を伴わず,長い経過を経て再発することはあっても腫瘍死に至ることはほとんどない腫瘍」と定義される。良性腫瘍では間質の線維成分の割合が上皮成分に加えて優勢である場合,「線維腫(fibroma)」の接尾辞をつける。また肉眼的に嚢胞を形成しているときは「嚢胞性(cystic)」を付してよぶ(漿液性と粘液性腫瘍に限る)。漿液性腫瘍が表層に乳頭状に発育しているときは以前は「表在性(surface)」を付していたが,現組織分類では消滅している 1)。上皮性腫瘍の主な組織型に高異型度漿液性癌(high-grade serous carcinoma),低異型度漿液性癌(low-grade serous carcinoma),粘液性癌(mucinous carcinoma),類内膜癌(endometrioid carcinoma),明細胞癌(clear cell carcinoma)の 5 つが挙げられ,以前は単一の漿液性癌とされていた高異型度漿液性癌と低異型度漿液性癌は組織発生の違いから,今や別の組織型と考えられている 3)。すなわち上皮性腫瘍の 40%以上を占める(図 1) 4)高異型度漿液性癌の多くが漿液性卵管上皮内癌(serous tubal intraepithelial carcinoma:STIC)を前駆病変として,卵管から卵巣,腹膜へと転移・進展したものである(図 2) 5)のに対し,低異型度漿液性癌は伝統的な組織発生,すなわち卵巣表層上皮や表層上皮封入嚢胞(surface epithelial inclusion cyst)に起源をもつと考えられている(図 3) 3)。発生初期の中腎堤を覆う体腔上皮はミュラー管(傍中腎管)へと分化して子宮・卵管・腟上部へと分化するが,生殖堤を覆った体腔上皮は卵巣表層上皮へと分化する。このため卵巣表層上皮はミュラー管由来の臓器組織への分化能をもち,卵管上皮を模倣する卵管内膜症(endosalpingiosis)から腺腫,境界悪性を経て,低異型度漿液性癌に至る 6)7)。また卵管采の卵管上皮は,時に排卵後に欠損した上皮の修復過程で卵巣組織内に嵌入して表層上皮封入嚢胞を形成し 8-10)卵巣漿液性腫瘍の発生母地となる(図 3)。高異型度漿液性癌の一部は,後者の経路で多段階発癌したものと考えられているが,まれである 11)。後者のように良性腫瘍や境界悪性腫瘍を経て比較的緩徐に発生する卵巣癌を Type Ⅰ,高異型度漿液性癌のように前駆病427卵巣腫瘍 ovarian tumors1.上皮性腫瘍と上皮性・間葉性混合腫瘍
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