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第1章 腫瘍免疫学の基礎知識48 がん組織は,がん細胞のみならず,免疫系細胞,間質細胞,脈管,および細胞外マトリックスなどで構成されている。これらの構成成分の割合は発生臓器や組織型によって異なるほか,病期や部位(原発巣と転移巣),がんが獲得した遺伝子異常,治療介入などによっても異なっており,多様性に富んでいる。この腫瘍微小環境はがんの増殖を支持し,転移,治療抵抗性に寄与しているだけではなく,全身の免疫抑制にも影響していると考えられている1)。 がんは治らない慢性的な炎症に例えられるが,炎症巣では活性酸素などがDNAに損傷を与えて増殖や免疫逃避に有利な遺伝子変異を引き起こすと同時に,生体に有害な過剰な炎症を抑制する生理機構を逆手に取ってがん細胞がさらに増殖する。Schreiberらが提唱したがん免疫編集説によれば,生体に生じたがん細胞の多くは免疫系によって認識され排除(排除相)されるが,遺伝子変異の蓄積で徐々に排除されにくいがん細胞が出現し,がん細胞の増殖と免疫系による排除が同程度になる(平衡相)。そして遂にがん細胞は,免疫監視を回避して増殖し,臨床的ながんが発生する(逃避相)2)。この逃避相に至った腫瘍微小環境では腫瘍免疫を抑制する機序が大勢を占め,がん細胞の増殖に極めて有利となっている。 このように多様な腫瘍微小環境であるが,免疫細胞(特に細胞傷害性T細胞,cytotoxic T lymphocyte:CTL)の浸潤の程度により炎症性腫瘍(hot tumor)と非炎症性腫瘍(cold tumor)とに大別することができる3)。まず,炎症性腫瘍は腫瘍遺伝子変異量(tu-mor molecular burden:TMB)が高くネオ抗原が多く提示される結果,これに反応するCTLが多く浸潤し,産生されたケモカインがさらに免疫細胞を誘導する正のがん免疫サイクルが作動している。このような環境下で生き延びるために,がん細胞はPD-L1をはじめとするさまざまな免疫抑制性分子を発現するほか,周囲に免疫抑制機能を持った間質細胞や免疫細胞を動員する(adaptive resistance)4)。これに対して非炎症性腫瘍では,がん抗原が少ない,抗原をT細胞に提示するプロセッシング経路に障害がある,またはがん細胞がケモカイン産生を通じて,CTLなどのエフェクターT細胞の動員を阻害するような遺伝子異常を獲得5)し,免疫細胞の浸潤が乏しいという特徴がある。本項では,腫瘍微小環境に存在する免疫抑制性細胞の由来や性質について,個別に概説する。はじめに免疫抑制細胞(総論)8

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