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1 免疫チェックポイント分子は活性化CD8+T細胞(細胞傷害性T細胞)に加えて,CD4+T細胞にも発現している。したがって,irAEの機序として自己組織・細胞を認識するリンパ球が体内に残存している場合,免疫チェックポイント阻害薬により誤って活性されることによって自己抗原に反応するT細胞受容体を持つCD8+T細胞による自己の細胞・組織の破壊(図1A)や,CD4+T細胞からB細胞(→形質細胞)を介して産生された自己抗体による自己の細胞・組織の破壊(図1B)が生じるものと考えられている。 また,免疫チェックポイント阻害薬の投与により誘導された炎症性サイトカイン (IFN-g, TNF-a, IL-1, IL-6, IL-12, IL-18など) や,CTLA-4発現組織に対する抗CTLA-4抗体による直接の傷害(complement-dependent cytotoxicity:CDC,antibody-dependent cellular cytotoxicity:ADCC) なども想定されている。 理論上,自己と非自己の識別に関わるヒト白血球抗原(human leukocyte antigen:HLA)のうち,特にCD8+T細胞の活性化の主刺激シグナルに関わるClass I抗原は全身の正常細胞のほぼすべてに発現しているため,あらゆる臓器・器官にirAEは起こりうる。比較的頻度の高いirAEとして胃腸障害,肝障害,皮膚障害,内分泌障害(主に甲状腺障害),肺臓炎などがあり,重症筋無力症,筋炎,1型糖尿病,ギラン・バレー症候群などは頻度が低い。脳・髄膜炎,多発筋炎(→呼吸筋麻痺),心筋炎,下垂体不全,副腎不全,劇症1型糖尿病などのirAEについては,発症自体は比較的まれであるが重篤化あるいは致死的となりうる副作用である。これらに対してはオンコロジーエマージェンシーに準じた対応が必要である。重症例では障害臓器に応じてさまざまな診療科との連携が必要である。 障害される臓器・器官によってirAEの発症時期にはある程度の傾向があると考えられ第2章 がん免疫療法124 免疫チェックポイント阻害薬特有の有害事象として,免疫関連有害事象(immune-related adverse events:irAE)が出現する。特徴として,各々の有害事象は頻度が低いものがほとんどであるが,全身多岐にわたり出現し,その発現時期を予測することが難しく,ときに適切な対応や対処の遅れが致命的となることもありうるため,そのマネジメントにあたっては注意が必要である。本項では,irAEの作用機序,臨床的特徴,および,マネジメントについて概説する。はじめにirAEの機序免疫チェックポイント阻害薬特有の副作用(免疫関連有害事象)4

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