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 うつ病性障害におけるベンゾジアゼピン系抗不安薬の効果に関する38件のランダム化比較試験のシステマティックレビューやb),アルプラゾラムのうつ病に対する効果を調べた21件のランダム化比較試験のシステマティックレビューではc),ベンゾジアゼピン系抗不安薬は,短期的にはプラセボより有意な効果,および,三環系抗うつ薬と同等の効果を示し,不安を伴ううつ病の治療選択肢となりうることが示唆された。一方で,ベンゾジアゼピン系薬は,過鎮静,健忘,認知障害などの副作用や,乱用や依存のリスクのため,長期使用を避け一時的な使用にするべきとされた。また,これらの効果が抗うつ作用によるものか,非特異的な催眠作用や抗不安作用によるものかは結論が出ないとしているc)。 適応障害に対する薬物療法の29件の論文のシステマティックレビューではd),ベンゾジアゼピン系抗不安薬は,抗うつ薬,精神療法(心理療法,サイコセラピー)と同等に抑うつ症状やトラウマ関連症状のスコアを改善させることが示されたが,一方で時間経過による自然な改善の可能性も指摘されている。 全般性不安障害,社交不安障害,パニック障害などの不安障害群に対する薬物療法のシステマティックレビューやメタアナリシスにおいてもe‒g),ベンゾジアゼピン系抗不安薬は不安症状を改善させたが,依存や乱用のリスク,アルコールなどとの相互作用,認知機能低下など忍容性の点から,その使用は限定的にすべきとされている。 以上から,本ガイドラインでは,がん患者におけるエビデンスは乏しいものの,一般の精神疾患に関するエビデンスも加味し,がん患者における閾値以上の気持ちのつらさに対して,抗不安薬を投与することを提案する,とした。ただし,抗不安薬については,眠気,倦怠感,過鎮静,転倒,健忘,認知機能低下などの有害事象や,長期使用による依存や耐性のリスクが指摘されていることから,安易な使用は避け,使用する場合も漫然と投与せず短期間の限定的な使用とすることとした。また,基本的な支持的コミュニケーションを行ったうえで,精神療法を含む,より推奨度が高くエビデンスが確実な介入を優先的に検討し,抗不安薬を使用する場合もこれらと組み合わせることが望ましい。 これらの付記には,後述する国外のガイドラインにおける推奨も考慮した。1)益と害のバランス がん患者の気持ちのつらさに対する抗不安薬の益として,不安や抑うつを軽減させることが弱く示された。害として眠気や倦怠感の可能性が示唆された。がん患者以外の不安や抑うつを呈する精神疾患に対する抗不安薬の益として,不安や抑うつの改善への効果があるとされた。害として,眠気,倦怠感,過鎮静,転倒,健忘,認知機能低下,長期的には乱用や依存のリスクが挙げられた。よって,抗不安薬の投与は短期的には不安や抑うつに対する益があるが,長期的には害が上回るため,使用は必要時の短期間にとどめるべきと考える。 また,ベンゾジアゼピン系薬はせん妄を惹起・悪化させる可能性が指摘されており,特に進行終末期のがん患者においては,せん妄の有病率が高まるためh),せん妄のリスクを考慮して使用する必要がある。2)患者の価値観・希望 多くの患者は不安や抑うつなどの気持ちのつらさをできるだけ速やかに改善したいと考え216 

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