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Ⅲ章臨床疑問る一方で,一部の患者は向精神薬の使用をためらう場合もある。そのため,個々の患者にとっての益と害や,価値観に沿って検討する必要がある。3)コスト・臨床適応性 抗不安薬は比較的安価な薬剤であり,ほとんどの医療機関で採用されているため,新たな資源投入は必要ないと考える。また,心身症や神経症の不安症状などに適応があり,多くの医療者が処方経験をもつことから,実施も容易である。以上から,医療者が適切な評価・診断のもと,副作用モニタリングを行い,必要期間のみ使用することで臨床適応性は高いと考える。4)関連する他のガイドラインにおける推奨 米国臨床腫瘍学会(American Society of Clinical Oncology:ASCO)の「成人がん患者における不安や抑うつ症状のマネージメントに関するガイドライン」では,不安や抑うつに対する一次治療は種々の精神療法や心理社会的介入であり,薬物療法は単独でも併用でも一次治療としては推奨されないこと,抗不安薬は第一選択の治療法が無効もしくはこれらにアクセスできない場合や,患者が薬物療法を希望する場合にのみ,短期間に限定して使用するべきとしておりi),安易な使用に警鐘を鳴らしている。 一方,欧州臨床腫瘍学会(European Society for Medical Oncology:ESMO)の「成人がん患者の不安と抑うつに関する臨床ガイドライン」では,がん患者に対する抗不安薬の使用に関する研究が乏しいことに言及したうえで,中等症や重症の不安に対しては,専門家の介入のもとで抗不安薬を含めた薬物療法と精神療法の統合的ケアを推奨しているj)。5)実施に関わる検討事項 抗不安薬は日常診療において広く使用されており,比較的効果発現が早いという特徴があるが,ベンゾジアゼピン系薬については転倒やふらつき,過鎮静,認知機能障害などの副作用や,依存や耐性形成の観点から長期に漫然と使用することに警鐘が鳴らされている。また,ベンゾジアゼピン系薬がせん妄のリスクを高めることや,全身状態の悪い患者や術後の患者,進行終末期の患者ではせん妄のリスクが高まることが指摘されているh)。 よって,本ガイドラインでは,抗不安薬の処方に際しては副作用モニタリングを行い,患者の身体状況や病期にも配慮して必要時の限定的な使用にとどめるべきと考える。6)今後の研究可能性 がん患者の気持ちのつらさに対して,抗不安薬単剤とプラセボを比較したランダム化比較試験は非常に少なく,がん患者における,操作的診断基準で診断されたうつ病,不安障害,適応障害や,閾値以上の抑うつ症状,不安症状,気持ちのつらさに対する抗不安薬の有効性,および忍容性に関する研究が必要である。 不安症状は,正常な心理反応としての不安から,精神医学的な治療を必要とする症状まで幅広い。そのため,がん患者において薬物療法の適応となる不安の評価やリスク因子に関する研究が必要である。臨床疑問1 217

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