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Ⅱ章2気持ちのつらさの定義と症状総1 論 「気持ちのつらさpsychological distress」とは,つらい気持ちに伴う心身の状態を広く示す用語である。「気持ちのつらさ」はさまざまなストレスから生じる。ストレスには,人生上の大きな出来事(例えば,事故,失職,死別・離別など)と,日々のこまごました要因(例えば,長時間労働,人間関係のあつれき,慢性疾患に伴う生活上の困難など)が含まれる。がん患者特有のストレス要因には,疾患(がん)に関する重大な病状告知を受けることや,疾患や治療に伴う人生・生活上の変化などが含まれる。「がん患者における気持ちのつらさ」(厳密には,「がん患者特有の気持ちのつらさ」)とは,「がんやがん治療に対する不快な心身の反応」と定義できよう。 「気持ちのつらさ」の症状は,大きく分けて,抑うつ(落ち込み),不安(心配,恐怖などを含む),怒りのカテゴリーを含んでおり,感情(気分),認知(思考),行動,身体の各領域の症状を含んでいる。 「気持ちのつらさ」の程度には幅がある。日常生活で誰もが体験する程度の心理反応(例えば,悲しみ,心配)から,生活に困難をきたす程度の心理状態(例えば,抑うつ,不安),さらには,精神医学的診断に該当する程度の状態(うつ病,不安障害など)まで,広い範囲を含んでいる(“スペクトラム”である)(図1)。 「気持ちのつらさ」という用語は,「抑うつ」などの精神医学的・心理学的な用語と比較して,患者・家族や非専門家に理解されやすく,受け入れられやすく,偏見が少なく,患者からの表出に基づいて評価できる(精神・心理の専門家による判断を必須としない),精神疾患に該当しない患者に対しても臨床上は精神・心理的ケアが求められる,などの理由から,国際的に広く用いられており1,2),本ガイドラインもそれに準じた。図1 気持ちのつらさのスペクトラム〔日本緩和医療学会・日本サイコオンコロジー学会.緩和ケア継続教育プログラムPEACEプロジェクト資料およびMassie MJ. Psycho-Oncology. Oxford;1998を参考に作成〕通常に体験する心理反応悲しみ心配恐れ などがん再発恐怖 など精神疾患に該当する状態抑うつ不安うつ病不安障害など (藤澤大介)「がん患者における気持ちのつらさ」の定義

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