表2 大うつ病性障害の診断基準以下のすべてを満たす。A.以下の9つの症状のうち5つ以上がほとんど1日中,ほとんど毎日あり,2週間以上持続し,そのうち 抑うつは,①気持ちの落ち込み,②意欲の低下,を中核とする症状群であり,ストレスとなる要因を経験した後は誰もが経験しうる症状である。一般的な反応(正常範囲の心理反応)では,ストレス要因の直後は,いわば“頭が真っ白”になって実感がわかないこともあるものの,次第に実感を伴って事態を認識するようになり,落ち込み,意気消沈,不眠,食思不振,集中困難,絶望感などの抑うつ症状をきたす。しかし,多くの場合は,2週間程度の期間が過ぎると,現実を受け入れ,問題に取り組む意欲を取り戻すとともに,気分は改善し始める。しかし,一部のケースでは,抑うつ症状が一般に想定されるより重かったり長かったりする。そのように,症状や機能障害が比較的重篤で,一定期間以上持続し,一定の診断基準を満たす場合を「うつ病」(正式名称は大うつ病性障害)と呼ぶ。大うつ病性障害の診断基準の概略を表21)に示す。 その他,がん患者においては,医学的ケアに参加しない(例:リハビリテーションに参加しようとしない),恐怖または抑うつ的な表情や姿勢,社会的ひきこもりや発話減少,くよくよ,自己憐憫,悲観主義,励ましに応じず笑顔がない,良い知らせや面白い状況に反応が乏しい,などの,他覚的な症状も抑うつ状態を示唆することがわかっており2),介入が必要な患者の同定に役立つ。 逆に,正常範囲の心理反応としての抑うつ症状は,以下の点で,うつ病と区別できる。 ①症状や機能障害が重度でない ②時間や日により変動しやすく,気分の変動が,日々の出来事と密に関連している ③保証や励ましによって気分が改善する ④自己無価値感,著しい罪責感,広範な悲観的考え,が(ほとんど)ない ⑤希死念慮はあっても一過性で計画性を伴わない ⑥救済の希求が高い(助けを求めようとする) うつ病の診断基準は満たさないが,ストレス要因に伴って,抑うつや不安をきたし,それ〔アメリカ精神医学会 著,日本精神神経学会(日本語版用語監修),高橋三郎,大野裕 監訳.DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル.pp160‒1,医学書院,20141)より作成〕1つが,1ないし2である。 1.抑うつ気分 2.興味または喜びの喪失 3.食欲の減退あるいは増加,体重の減少あるいは増加 4.不眠あるいは睡眠過多 5.精神運動性の焦燥または制止(沈滞) 6.易疲労感または気力の減退 7.無価値感または過剰(不適切)な罪責感 8.思考力や集中力の減退または決断困難 9.死についての反復思考,自殺念慮,自殺企図B.症状のために著しい苦痛または社会的,職業的,または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。C.これらの症状は一般身体疾患や物質依存(薬物またはアルコールなど)では説明できない。16 2.気持ちのつらさの定義と症状2抑うつ・うつ病
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