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9非薬物療法1) はじめに がんの経験は,身体のみならず,患者の生活,役割,自尊心,家族など多岐にわたって患者に大きな影響を及ぼし,さらに高頻度の精神症状が認められる。例えば,診断後の不安,抑うつ,サバイバーシップにおける再発不安,進行・再発期における抑うつ,終末期における実存的苦痛などである。あらゆる病期のがん患者が適切な精神的援助を必要としており,また,がん患者は薬物療法より精神療法を希望することが多い1‒3)。こういったことから,精神療法アプローチは,がん患者に対する精神的援助の中核治療となる。2) 精神療法とサイコオンコロジーの歴史 精神療法は19世紀に催眠療法を中心に発展し,その影響を受けてフロイト(Freud, S.)が無意識を概念化し,精神分析を創始した。その後,ユング(Jung, C.G.),アドラー(Adler, A.)らはフロイトから独立してそれぞれの精神療法を提唱し,フロイトの弟子らは精神分析を関係性による人間理解を基盤とした理論へと展開させた。さらに,ロジャーズ(Rogers, C.)らが,自己実現や人間性の成長を目標とした人間中心主義の精神療法として,来談者中心療法(カウンセリング)を提唱した。そして,アイゼンク(Eysenck, H.J.)やウォルピ(Wolpe, J.)が学習理論を応用する介入法である行動療法を進展させ,その後,ベック(Beck, A.T.)が思考の特徴を扱う認知療法を開発し,この2つは認知行動療法へと発展を遂げて注目されている。こういったなか,1970年代頃から,がんと精神・心理との相互の影響を扱う学問であるサイコオンコロジー(精神腫瘍)が提唱され,グループ療法など,がん患者に対する心理的介入が報告され始めている4)。サイコオンコロジーにおける精神療法の臨床的焦点は,精神心理的苦痛を緩和することに加えて,それぞれの患者ががん治療とそれを乗り越える旅路において,積極的なコーピング力を育成し,健康的な適応を促進することにある。3) 精神療法の定義 精神療法とは,治療者‒患者関係という職業的な対人関係によって,患者の心身に効果的な影響を与える心理的治療を総称するものであり5),主に対話を用い,精神障害や心身症を呈している人,心理的問題や不適応に陥っている人,種々の困難をかかえている人などの認知・情緒・行動などに働きかけ,そこに適応的な変化を図ることを目的としている。 すなわち,精神療法とは,トレーニングを受けた医療専門職との治療関係を通じて,理論的な枠組みに基づいた相互的コミュニケーションによって,精神的負担を軽減させることをがん患者の気持ちのつらさに対する精神療法1A精神療法(心理療法,サイコセラピー)

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