10212T
2/12

1 免疫チェックポイント阻害薬 抗腫瘍免疫応答において中心的役割を担うT細胞上には,免疫応答を活性化するアクセル(co‒stimulatory molecule:共刺激分子)と,抑制するブレーキ(co‒inhibitory molecule:共抑制分子)が発現する。後者は「免疫チェックポイント(immune check-point)」として機能し,T細胞活性化の際に,自己への不適切な免疫応答や過剰な炎症反応を抑制する機構であり,代表的な免疫チェックポイント分子としてCTLA‒4(cyto-toxic T‒lymphocyte‒associated protein 4)やPD‒1(programmed cell death‒1)などの抑制性受容体がある。これらの抑制性受容体に生理的なリガンドが結合すると,T細胞の増殖やエフェクター機能(サイトカイン産生や細胞傷害活性など)が抑制され,生体の恒常性維持に重要な働きをする一方で,がん細胞はこの抑制機構を,本来の免疫恒常性を保つ目的から盗用することで宿主の免疫監視から逃れている。 免疫チェックポイント阻害薬(表1)は,免疫チェックポイント分子である抑制性受容体もしくはそのリガンドに結合して,抑制性シグナルを遮断することによって免疫系のブレーキを解除し,T細胞の再活性化により腫瘍に対する免疫応答を高める治療薬である。 CTLA‒4はT細胞活性化初期(priming/activation phase)に働く免疫チェックポイント分子で,主にリンパ組織における抗原提示を制御する。CTLA‒4遺伝子は1987年に単離され1),1991年にCD28のリガンドであるCD80(B7‒1)およびCD86(B7‒2)がCTLA‒4にも結合することが発見された2)。当初,CTLA‒4は活性化受容体と考えられたが,1994年および1995年に,CD28はT細胞を活性化するのに対してCTLA‒4は抑制することが示された3,4)。その機序としては,T細胞の活性化には,T細胞受容体(T‒cell receptor:TCR)を介する主刺激シグナル経路の他に,CD28共刺激分子とそのリガンドを介する共刺激(補助刺激)経路の活性化が必須であるが5),CTLA‒4はCD28を競合阻害し,抗原提示細胞上のリガンド(CD80/CD86)を占有することによりT細胞の活性化を抑制する3,6)。CTLA‒4は,競合するCD28と比較し10~100倍高い親和性でリガンドと結合するため,T細胞上にCD28とCTLA‒4が同時に発現する場合,ほとんどのリガンドはCTLA‒4に結合し,CD28による共刺激を減弱させることで免疫応答を抑制する7)。また,CTLA‒4は制御性T細胞(regulatory T‒cell:Treg)上にも恒常的に強く発現しており,抗原提示細胞のCD80/CD86の発現を抑制し,T細胞活性化能を低下させる8)。また,抗CTLA‒4抗体を介した抗体依存性細胞傷害(antibody‒dependent cellular cytotoxicity:ADCC)によりTregが除去され,Tregによる免疫抑制が解除される作用も報告されている。実際,ADCC活性を有する抗CTLA‒4抗体は,マウスにおいて腫瘍中のTregを除去し,強い抗腫瘍効果を発揮するが,Fc活性を低下させるこⅠ.がん免疫療法の分類と作用機序10 1 抗CTLA‒4抗体薬

元のページ  ../index.html#2

このブックを見る