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米国食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA)により切除不能または転移性悪性黒色腫の治療薬として,欧州でも2011年に,本邦では2015年に初めて承認された。また,現在,本邦では,腎細胞癌,高頻度マイクロサテライト不安定性(microsatel-lite instability‒high:MSI‒H)を有する結腸・直腸癌,非小細胞肺癌,悪性胸膜中皮腫,食道癌において保険収載されており,さらに海外では,それに加えて肝細胞癌で承認されている。 PD‒1はT細胞上に発現し,T細胞活性化後期(effector phase)に働く免疫チェックポイント分子で,主に炎症局所でCD8陽性T細胞(細胞傷害性T細胞)が標的細胞を攻撃する場面で作用する。PD‒1遺伝子は1992年にクローニングされ16),機能が明らかにされた。特に,PD‒1欠損マウスを用いた研究はPD‒1による免疫抑制作用を特徴づけた17,18)。PD‒1欠損マウスは遺伝的背景により多彩な自己免疫疾患を発症するが,その自己免疫症状はCTLA‒4欠損マウスに比べて遅発性で比較的軽症である。マウスの表現型の違いは,抗CTLA‒4抗体および抗PD‒1抗体の副作用の違いと相関がみられる15,18)。 2000年および2001年にPD‒L1(B7‒H1,CD274)およびPD‒L2(B7‒DC,CD273)がPD‒1のリガンドとして同定され19,20),PD‒1による免疫抑制の分子メカニズムが明らかとなった。リガンドが結合するとPD‒1の細胞質領域にチロシン脱リン酸化酵素(SHP1,SHP2など)が集積し,T細胞受容体シグナルの下流分子でありT細胞の活性化に必要なZAP70のチロシンリン酸化反応を阻害することや,共刺激シグナル伝達分子であるCD28を脱リン酸化することにより,T細胞を機能不全,さらにはアポトーシスへ誘導する。このように,PD‒1がT細胞の増殖やサイトカイン産生,細胞傷害活性を抑制することで,過剰な免疫応答が抑制される21‒24)。リガンドであるPD‒L1は炎症により免疫担当細胞だけでなく,末梢組織にも発現が誘導され,さまざまながん細胞やウイルス感染細胞にも発現する。2002年および2003年に,PD‒1シグナル阻害により,がんの増殖阻害とウイルス感染防御が可能であることが動物モデルによって示された25,26)。 これらの基礎医学研究を背景として,完全ヒト型抗PD‒1抗体薬ニボルマブが開発され,2006年に進行性がん(悪性黒色腫,非小細胞肺癌,腎細胞癌など)に対する第Ⅰ相試験が開始された18)。2014年にニボルマブは,世界に先駆けて本邦で悪性黒色腫の治療薬として承認され,2015年には非小細胞肺癌が適応となり,米国,欧州でも承認された。その後,本邦では,腎細胞癌,ホジキンリンパ腫,頭頸部癌,尿路上皮癌,胃癌,dMMR/MSI‒Hの結腸・直腸癌,食道癌,悪性胸膜中皮腫や原発不明癌で承認されており,国外では,肝細胞癌においても承認され,その他にも現在,世界中でさまざまながん種に対する第Ⅲ相試験が進められている。抗ヒトPD‒1抗体薬としてはニボルマブの他にペムブロリズマブなどがあり,本邦ではペムブロリズマブが悪性黒色腫,非小細胞肺癌,腎細胞癌,食道癌,ホジキンリンパ腫,頭頸部癌,尿路上皮癌,dMMR/MSI‒Hの固形がん,dMMR/MSI‒Hの結腸・直腸癌,トリプルネガティブ乳癌や子宮体癌,子宮頸癌などの治療薬として承認されており,国外ではそれに加え肝細胞癌,胃癌,メルⅠ.がん免疫療法の分類と作用機序12 2 抗PD‒1抗体薬

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