5名は抗精神病薬からの変更でトラゾドン+ベンゾジアゼピン系薬が併用投与された。その結果,統計学的な検討はされていないが,いずれの患者においてもトラゾドン(範囲:12.5~200 mg/日)投与後1~3日以内にDRSの合計スコア(重症度に関する7項目)の低下を認めた。有害事象は報告されなかった。 Ishiiらb)は,がん患者を含むせん妄を有する患者442名のうち,トラゾドンが単独投与もしくはトラゾドン+ラメルテオンが併用投与された92名の患者を対象に,トラゾドン単独投与およびトラゾドン+ラメルテオン併用投与が3~7日後においてせん妄を改善するかを単施設の後ろ向き観察研究によって検討した。その結果,トラゾドンが単独投与された33名(うち,がん患者12名)(平均投与量:トラゾドン35.6 mg/日),トラゾドン+ラメルテオンが併用投与された59名(うち,がん患者24名)(平均投与量:トラゾドン32.6 mg/日,ラメルテオン7.8 mg/日)の両群において,DRS-R-98の合計スコアが有意に改善した。また,安全性については,トラゾドン単独投与群ではせん妄の悪化が2名で報告され,トラゾドン+ラメルテオン併用投与群では眠気が2名,せん妄の悪化が1名で報告された。 Wadaらc)は,せん妄を有する入院患者194名(がん患者が含まれるかは記載がなく不明)(うち,低活動型せん妄10名)を対象に,せん妄に対して投与された第一選択薬および第二選択薬,その有効性や安全性を単施設の後ろ向き観察研究によって検討した。その結果,第一選択薬としてはトラゾドンが最も多く使用されており(平均投与量80.3 mg/日,範囲25~200 mg/日),第一選択薬としてトラゾドンが投与された群(100名),クエチアピンが投与された群(57名)の比較では,中等度のせん妄に対してはトラゾドン,最重度のせん妄に対してはクエチアピンが選択されており,せん妄の持続期間,抗精神病薬の頓用を使用した割合,有害事象により第二選択薬へ変更となった割合は両群間に有意差を認めなかった。 また,非がん患者において,せん妄発症の原因としてトラゾドン投与が疑われた複数の症例報告が存在するd‒f)。 以上より,がん患者を対象とした1件の観察研究1)において,せん妄に対するトラゾドンの有効性が示唆されているが,質の高い研究ではなく,共介入である他の薬剤や非薬物療法の影響を除外できないことから,トラゾドンの単独投与がせん妄症状を軽減する十分な根拠とはいえない。また,非がん患者も対象に含む2件の観察研究b,c)においても,せん妄に対するトラゾドンの有効性が示唆されているが,これらも同様に質の高い研究ではなく,共介入の影響を除外できず,がん患者への一般化については検討を有する。安全性としては,少数例で眠気,せん妄の悪化などが報告されているが,せん妄を有する患者に対するトラゾドンの投与が傾眠や転倒・転落のリスクの有意な上昇と関連するかどうかは明らかでない。 一方で,わが国の臨床現場では,特に低活動型せん妄を有する患者の治療薬としてトラゾドンが既に使用されていることが報告されている。Okumuraらg)は,わが国の総合病院の精神科医136名を対象として(回答率27.5%),せん妄治療の第一選択薬の推奨をせん妄の病型,患者の年齢,腎機能,糖尿病の有無,投与経路のカテゴリー別に調査した。その結果,経口剤では,過活動型せん妄に対しては精神科医の大半が抗Ⅲ章臨床疑問臨床疑問6 97
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