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ス胃序3章ESDアトラ214早期胃癌に対するESDは他臓器に先駆けて普及し,内視鏡治療のほとんどがESDにより実施されているのが実情である1, 2)。また,PCMの応用やTA-ESDも普及し,初版の頃に比べ選択肢が増加している。しかし,部位や病変によっては極端に難易度が高まり,出血や穿孔のリスクも問題となる。こうした困難例に対処する際に,最も留意すべきは部位別の解剖学的な背景である。筋層の走行や壁の薄さは部位ごとにほぼ予測可能で,血管の太さや分布も既におおよそわかっている。線維化の程度も内視鏡所見やEUS等で,ある程度推定可能である3-6)。上部スコープの鉗子孔は左下に位置するものがほとんどで,前壁と後壁ではデバイスが筋層へ向かう角度が異なってくる。病変へのアプローチは順方向視と反転視とがあり,どちらを中心とするかで手技は大きく異なる。いずれも既にどのような展開が待っているのか予測可能と思われる。噴門から幽門輪まで変化の多い胃の各部位において,方法・ストラテジー別にどのように違う展開が得られるのか,それぞれをできる限り提示したので考察の一助としていただきたい。ESDを始める前に重要な適応や内視鏡診断については既にガイドライン等にまとめられている。適宜参照していただきたい7, 8)。噴門部を特徴付けるのは,内側縦斜走筋の存在である。首筋にかけたマフラーのように,大弯唇から体部前後壁に向かって左右対称に分布しており,逆流防止に寄与しているとされる。これらは内輪筋より浅層に存在し,大弯に向かって斜走しながら,胃角部前後壁まで伸びている。小弯は内輪筋が最浅層で,縦斜走筋とは段差をもって明瞭な境が形成される。この境界を中心に左胃動脈から太い穿通枝が筋層を押しのけるようにして粘膜下層に流入し,大弯側へ向かって分岐しながら分布する(図1-2-1-2),3))。このように噴門から体上部前後壁は太い穿通動脈およびその分枝が存在し,切開・剥離時ともに大出血のリスクがある。大弯唇領域も比較的血管は豊富である。体部前後壁および穹窿部の筋層はかなり薄い。太い血管の穿通部位では筋層が欠損しており,穿孔を来さなくても気腹になることがある。大変な症例が多いが,何とか切除可能で,狭窄も食道に比し対処しやすい。手術となると全摘となる部位にて,患者のQOLのためぜひ頑1.噴門部

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