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6実際の投与方法と評価・ケアⅤ章 実践(2) 治療抵抗性の苦痛に対する持続的な鎮静薬の投与106 持続的な鎮静薬の投与を行う際には,効果と安全性(全身状態や生命予後に与える影響)について考慮したうえで鎮静薬の調節を行う必要がある。鎮静により期待される効果は苦痛緩和であり,安全性で懸念されるのは,意識の低下,呼吸抑制,誤嚥,循環動態の悪化による全身状態の悪化や生命予後の短縮をもたらす可能性である。 持続的鎮静のための薬剤は,少量で緩徐に開始し目的が得られるまで投与量を漸増する。調節型鎮静では苦痛の強さを指標とするため,苦痛が緩和された場合はそれ以上鎮静薬を増量しない。苦痛緩和が得られたが鎮静が深くなりすぎた場合は,減量を検討する。持続的深い鎮静では患者が深い鎮静状態となるまで鎮静薬を増量することが原則であるが,増量する過程で十分な苦痛緩和が得られた場合にはさらに増量する必要はない。投与初期には血中濃度を治療域に到達させるため,必要に応じて(全身状態から総合的に判断して適切ならば),早送り(追加投与)[注1]を行うか,または,一定量のローディングドーズ(負荷投与)[注2]を行ってから減量する。 持続的鎮静に用いる薬剤の第一選択薬はミダゾラムである。ミダゾラムが有効でない場合には,フェノバルビタール注射薬などを使用する[注3]。注射薬が使用できない場合にはベンゾジアゼピン系坐薬やバルビツール系坐薬を代替薬とする(調節しにくく効果も不安定なため,坐薬を持続的鎮静として用いるのは他に代替手段がない場合である)[注4]。2023年現在,いずれの薬剤も苦痛を緩和するために使用する鎮静目的の保険適用はない。 オピオイドは意識の低下をもたらす作用が弱く,かつ,蓄積により神経毒性(傾眠,せん妄,ミオクローヌスなど)を生じうるため,鎮静に用いる主な薬剤としては使用しない。ただし,痛み・呼吸困難が苦痛症状である場合には,症状緩和として適切な量を鎮静薬と併用することを考慮する(P31,Ⅳ章—2—2「痛みに対する緩和ケア」参照;P57,Ⅳ章—2—4「呼吸困難に対する緩和ケア」参照)。同様に,ハロペリドールは意識の低下をもたらす作用が弱いため,鎮静に用いる主な薬剤としては使用しない。ただし,せん妄が苦痛症状である場合には,症状緩和として適切な量を鎮静薬と併用することを考慮する(P45,Ⅳ章—2—3「難治性せん妄に対する緩和ケア」参照)。 表1と表2に持続的鎮静に使用される薬剤の使用例を参考として示す。ミダゾラムの投与量については,概念の違いがわかるように調節型鎮静と持続的深い鎮静に分けて使用例として示した。後者は窒息や気道出血など調節型鎮静では苦痛が緩和されないと医学的に見込まれるなど,安全性よりも確実な苦痛緩和が優先される例外的な状況を想定している。資料4(P186)にミダゾラムの調整と評価方法の具体例を示した。 鎮静薬の必要量は患者の状態によって大きく異なるため,注意深く患者を観察して調節することが必須である。投与方法は一つの目安であり,上記の方法で投与すれば十分に効果が出るもしくは過量投与にはならない,というものではない。個々の患者で細かく調節1鎮静薬の投与方法

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