Ⅳ章 実践(1)治療抵抗性の苦痛に対する持続的な鎮静薬の投与を行う前に考えるべきこと32方法が本当にないのかを慎重に検討する必要がある。 難治性の痛みに対して,最初に行うべきことは,痛みの病態を正確に把握することである。がん患者の痛みはすべてがんが原因であると医療者が思い込み,誤った病態の認識のもとにオピオイドを漫然と増量すると,鎮痛に効果がないばかりでなく,せん妄や意識障害を合併してさらに痛みの評価を難しくする悪循環に陥る。問診,身体所見,画像検査などから痛みの原因を明らかにすることが重要である。原因が同定できれば,まず,痛みを生じている原因そのものに対する治療,すなわち,抗がん治療や,合併する感染症に対する抗菌薬の使用などを行えないか検討する。オピオイド増量後に痛みがかえって悪化する場合には,オピオイドによる痛覚過敏が生じている可能性を考慮する。慢性疼痛,たとえばもともとある非がん性の腰痛などに対しては,オピオイド以外の鎮痛薬,心理社会的要因に対するケア,神経ブロック,リハビリテーションの介入を優先するのが原則である。 同定した原因からみて痛みが難治性になると判断される場合(がん自体が神経を巻き込んだ神経障害性疼痛や骨転移による体動時痛など)は,痛みを完全に消失させることはできない可能性が高いことを前提として患者と治療目標を相談する。痛みの病態を丁寧に説明し,選択肢となりうる治療(神経ブロックなども選択肢に含めるか)を共有し,治療目標を設定する。痛みの緩和と,意識を維持することやコミュニケーションできることが両立できない場合は,患者自身が何を優先するかを相談しながら治療を行うことが重要である。 痛みのケアにおいては,痛みを悪化させる要因を取り除き(痛みが出にくいような動作で身の回りのことができるように環境整備を行うなど),心理社会的なサポートも十分に行う。がん疼痛の薬物療法としては,持続痛に対して,効果があり意識に影響しない範囲で定時投与されているオピオイドを増量する。突出痛がある場合には突出痛への対応を行う(痛みがある時にレスキュー薬を使用する)。あるオピオイドで効果がない場合は,オピオイドの投与経路の変更,オピオイドスイッチング,非オピオイド鎮痛薬(NSAIDs・アセトアミノフェン)の併用・増量,鎮痛補助薬の併用などを行う。薬物療法と併行して,放射線治療やIVR(interventional radiology),神経ブロックを検討する。 網羅するものではないが,難治性の痛みをみた場合に検討するべき具体的な内容を表2に示した。 痛みの原因や機序を評価し,原因・機序に基づいた鎮痛法を計画することが基本である。新しく発生した痛みについては別の病態が起こっている可能性が高く慎重な評価を要する。痛みがあるからという理由だけでオピオイドを増量すると効果が得られないばかりか,かえってせん妄などの精神症状を生じて痛みの治療そのものが行えなくなる場合がある。 痛みの原因は,それまでに撮影された画像所見と,問診内容(痛みの部位・範囲,痛みの経過,痛みの性質,突出痛の有無など),身体所見(痛む場所の知覚異常の有無など)によりおおむね明らかにできる。画像検査ができない環境では,問診や身体所見によって痛みの病態を可能な限り明らかにする。2原因の同定と治療
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