本書はアニメや漫画、小説などに登場する2次元キャラクターに対する考察で構成される。すなわち、2次元に対する二次創作である。そうなると、オリジナリティーはどこに? という疑問が湧いてきそうではあるが、この点について論点を整理してみたい。 そもそも医学というものは、生体の構造・機能および疾病を研究し、疾病の診断・治療・予防の方法を開発する学問であり(広辞苑 第7版より)、生体に起きた現象を観察しその要因について考察するものである。精神医学においても、精神現象を観察し、その結果を考察するという構造は変わらない。どんなに新しい学説を導き出したとしても、その起源(origin)となる現象は患者から生じたものであり、それに対する考察は二次創作そのものである。逆に実際にはない現象を作者が作り出してしまっては、妄想、あるいは捏造となってしまう。したがって、精神医学においては「パイオニア」はあっても、「オリジナル」は存在しないのである。こうして仰々しい言い訳をしながら、精神科医は日々人の褌で相撲を取り続ける。 (須田史朗)ティーブレーク 人の褌で相撲を取る ていて、その内容に「タイムトラベルが可能である」ということ以外の論理的飛躍がない場合、精神科医としてはどのように対応すべきか考えてみましょう。 まず、いったん「タイムトラベルが可能である」と仮定してよく話を聞いてみましょう。患者が統合失調症である場合、上記以外の論理的飛躍や破綻、つまり、妄想の発展のきっかけとなるような出来事から「ターミネーターが自分を殺しにきた、機械が人類を滅ぼす」という思考に至るまでの過程にどうも腑に落ちないところが見つかると思います。その過程に全く矛盾が含まれず、かつ「タイムトラベルが不可能である」場合は高度に妄想が体系化した妄想性障害ということになると思います。妄想以外の症状はないので統合失調症の診断にはあたりません。 この担当医はかなりのボンクラですね。単に制作側が愚鈍な精神科医を描きたかったのでしょうけれど。10 (須田史朗)
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