8 1 胚細胞腫瘍

そして三胚葉への分化を示す奇形腫を採り上げている。なお従来,多数の胚様体が出現する腫
瘍として多胎芽腫を単一型の組織型として分類していたが,現在多胎芽腫は独立した単一型の
組織型としては採り上げられておらず,胚様体を未熟奇形腫や混合型胚細胞腫瘍にときに出現
する成分として位置づけている

1,2)

以上の点をふまえて,本アトラスではWHO分類に準拠しつつ,小児胚細胞腫瘍が性腺だけ

ではなく性腺外にも好発することを考慮し,小児の特殊性について加味したものとした。

ロ.分類の説明
A)単一型胚細胞腫瘍

 Tumors of a single histological type, pure forms

1.ディスジャーミノーマ/セミノーマ/ジャーミノーマ Dysgerminoma/Seminoma /

Germinoma(図1〜5)

本腫瘍は発生部位により名称が異なっており,卵巣に発生した場合はディスジャーミノーマ

(未分化胚細胞腫),精巣・縦隔ではセミノーマ,その他の部位ではジャーミノーマ(胚細胞

腫)と呼称されている。

肉眼的所見:充実性の腫瘍で表面は平滑あるいは分葉状である。硬さは軟らかいものが多い

が,線維成分に富むものでは弾性硬を示す。割面では褐色から淡黄色で,均質であり,ときに
出血や壊死,嚢胞状変性を認めることがあるが,通常広範囲に及ぶことはない。

組織学的所見:均一なシート状に配列する腫瘍細胞より構成され,線維血管性の隔壁様構造

をもつ。腫瘍細胞は未分化で,原始胚細胞に類似するが,豊富な明るい細胞質と,1〜2個の
大型で明瞭な核小体を伴う類円形核をもつ。細胞質にはグリコーゲン,脂質などが含まれ,
PAS陽性を示す。細胞境界は明瞭である。さまざまな程度に核分裂像を認め,ときに多形性
が強く,核分裂像が目立つことがあるが,予後には影響しないとされている

3)

。稀に腫瘍細胞

は索状の配列や偽腺管状の配列を示すことがある

4)

。腫瘍細胞間あるいは線維血管性の隔壁様

構造には,成熟したリンパ球が浸潤しており,しばしばリンパ濾胞を形成する。リンパ球以外
に,形質細胞や好酸球浸潤をきたしたり,組織球浸潤が強く,異物巨細胞やラングハンス型巨
細胞を伴う肉芽腫性炎症を伴うことがある。特に頭蓋内のジャーミノーマでは,肉芽腫性の炎
症が目立ち,腫瘍細胞がごくわずかなこともあるため,詳細な組織学的検索が重要である

5)

稀に線維性の隔壁構造が癒合し,びまん性の線維化・硬化像をきたすことがある

6)

。また合胞

体栄養膜様巨細胞 syncytiotrophoblastic giant cell (STGC)を伴う場合があり,稀に集塊をつ
くることがあるが,細胞性栄養膜細胞をもたないことなどより絨毛癌とは区別される

7)

。多く

の例では血清腫瘍マーカーの有意な上昇はみられないが,STGCを伴う例では,しばしば血清
β-human chorionic gonadotropin(β-hCG)の上昇をみる。なお本腫瘍のみならず,胚細胞
腫瘍全般的に関わることであるが,周囲組織の血管ないしリンパ管侵襲を認めた場合には,切
り出し時のコンタミネーションとの区別を慎重につける必要がある。表面に腫瘍細胞が多数付
着し,脈管内に浮遊する腫瘍細胞が見出された場合は,コンタミネーションの可能性を考慮す