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3.治療法(Treatment)
DP-CAR
Distal pancreatectomy with en bloc celiac axis resection(DP-CAR)は膵体部癌に対する根
治性を高めるために,膵体部を腹腔動脈,総肝動脈とともに後腹膜組織で包み込んで一塊に切
除する術式である(図1)。DP-CARでは術前に総肝動脈をコイルで塞栓し,上腸間膜動脈から
下膵十二指腸動脈,胃十二指腸動脈へのアーケードを発達させて右胃動脈,右胃大網動脈,固
有肝動脈への血流温存が図られる。また両側腹腔神経節も合併切除されるため除痛効果も併せ
もつ。全胃の温存を目指すため,いわゆる胃癌に対し胃全摘・腹腔動脈兼膵体尾部切除を行う
Appleby手術とは異なるコンセプトの術式であるが,DP-CARでも胃への直接浸潤や胃の血流
障害が高度であれば胃全摘が追加されることもある。高度の後腹膜浸潤の場合,腹腔動脈断端
の処理が困難で,術中大動脈損傷から大出血をきたす危険があり,注意が必要である。DP-
CARでは膵切離線が膵頭側に寄ると縫合閉鎖が困難なほど膵切離面が広くなり,さらに近傍
に総肝動脈,腹腔動脈の2カ所の動脈切離断端があるため,膵液瘻から致死的動脈出血をきた
す懸念がある。また胃上部の虚血性胃症もしばしば発生する。これらの合併症を回避するため
に膵切離断端に膵空腸吻合(あるいは膵胃吻合)を付加したり,左胃動脈を温存したDP-CAR
を試みたりするなどの工夫が行われている。近年の膵臓外科領域の手術手技の向上は目覚まし
く,また術前化学放射線療法後の膵体部癌根治切除術式としてDP-CARが注目されてきてお
り,DP-CARを積極的に導入する施設がわが国で増えてきている。DP-CARの安全性と根治性
を示すわが国からのエビデンスレベルの高い報告がまたれる。
Column 2
切離線
切除範囲
RGA
CeA
LGA
CHA
Tumor
PHA
SpA
GDA
SMA
IPDA
RGEA
Arcade
図1 DP-CAR
RGA:右胃動脈,SpA:脾動脈,LGA:左胃動脈,GDA:胃
十二指腸動脈,CeA:腹腔動脈,SMA:上腸間膜動脈,CHA:
総肝動脈,IPDA:下膵十二指腸動脈,PHA:固有肝動脈,
RGEA:右胃大網動脈