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4. 病理診断
V
.定義と解説
1
.腺癌 Adenocarcinoma
【定義】 腺癌は腺上皮分化を示す悪性の上皮性腫瘍である。上皮内腺癌,微少浸潤性腺癌,浸潤
性腺癌,特殊型腺癌に分けられる。浸潤性腺癌は乳頭状・腺管状増殖や粘液産生,または肺胞上
皮細胞マーカーが陽性を示すものと定義される。形態の亜分類としては置換型,腺房型,乳頭型,
微小乳頭型,充実型の5亜型があり,最も優位な亜分類で診断名を付ける。
【解説】 喫煙はすべての肺癌の発生に関与するが,特に扁平上皮癌や小細胞癌で強く関与するこ
とが知られている。1950年代までは扁平上皮癌が喫煙者の代表的な組織型で,腺癌はむしろ非喫
煙者を代表する組織型と考えられてきた。しかし,近年は腺癌についても喫煙との関連が指摘さ
れている。腺癌は1980年代以降では肺癌の中で最も発生頻度の高い組織亜型である。
WHO第4版における腺癌の亜型分類の主な変更点は以下の通りである。
1
)"細気管支肺胞上皮癌"および"混合型腺癌"の診断名は削除した。
2
)前浸潤性病変の項目に異型腺腫様過形成とともに"上皮内腺癌"を加えた。
3
)"微少浸潤性腺癌"を新たに加えた。
4
)浸潤性腺癌は,5%刻みで存在する亜型分類を記載し,最も優位な亜型で分類することとした。
5
)"置換型"
(Lepidic)は非浸潤成分であるが,浸潤性腺癌の部分像でもある。
6
)
"浸潤性粘液性腺癌"は通常の浸潤性腺癌とは別に特殊型腺癌として分類した。ただし,上皮内
腺癌や微少浸潤性腺癌については従来通り非粘液性と粘液性を設けた。
7
)"淡明細胞癌","印環細胞癌"を亜型から削除し,細胞像を記載することとした。
8
)
"粘液囊胞腺癌"は削除し,コロイド腺癌に包含した。
旧分類では90%以上の腺癌が"混合型腺癌"として分類されることとなり,亜型分類の意味をな
していなかったが,今回の分類(WHO第4版)では混合型腺癌が除かれ,優位型による分類を行
うことで予後の予測も可能となり,より臨床に即した分類となっている。浸潤性腺癌亜型は5亜
型に分けられるが,悪性度の面からは置換型は低悪性度,腺房型および乳頭型は中悪性度,微小
乳頭型および充実型は高悪性度とみなされる。さらに上皮内癌と微少浸潤性腺癌が新たに加わっ
たことにより多段階発癌の概念も取り入れられた分類となっている。
【浸潤・非浸潤の鑑別について】
TNM分類の改定により,T因子にあたる腫瘍径は浸潤径で測定し,分類することになったこと
から,T因子を決定する際に"浸潤"の診断とその領域の計測が必要となる。WHO第4版では浸
潤と診断すべき組織所見として以下の4点を挙げている。
①置換型以外の組織亜型が1つ以上みられること。
②間質内に活動性線維芽細胞の増生巣が認められること。
③脈管,胸膜浸潤を認めること。
④肺胞腔内に腫瘍細胞の分離性増殖を認める(含むSTAS,p.86参照)。
さらに腫瘍内に壊死がある場合ある場合も浸潤性腺癌として分類する。