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ઃ分子遺伝学的解析

.序論

2016年に改訂されたWHO脳腫瘍分類第4版改訂版(以下WHO2016)では,初めて分

子診断が診断基準の一部として正式に取り入れられた

1)

。その結果,一部の脳腫瘍におい

ては確定診断のために分子診断を行うことが必要となった。分子診断が導入されたことに

より,一部の腫瘍では従来の病理組織学的検査ではしばしば診断に苦慮していた腫瘍に対

して明確な指標を用いた診断が可能となり,客観性が飛躍的に向上するとともに施設間の

診断の整合性を図ることもより容易になった。分子診断の影響を最も強く受けたのはoli-

goastrocytoma(乏突起星細胞腫)である。後述するように,以前からoligodendroglioma

とastrocytomaとの鑑別診断の基準があいまいだったoligoastrocytomaは,分子診断に

よりoligodendrogliomaまたはastrocytomaのいずれかに診断されることになった。

分子診断による確定診断は,多くの場合治療方針の決定に関わってくると考えられる。

例えばIDH変異と1p/19qcodeletionの存在はoligodendrogliomaの診断を確定し,海外

ではこれらの所見に基づく治療方針が推奨されている

2)

。また診断を確定するには至らな

くても,BRAFV600E変異(後述)のように特異的阻害剤による治療の対象になりうる遺

伝子変異もある。以上よりWHO2016において分子診断が採用されたことは,今後の脳

腫瘍診断の方向性を決定づける画期的かつ臨床的に極めて重要な第一歩であると言える。

一方で分子診断に必要な遺伝子検査については,現時点では脳腫瘍の診断を目的として

保険収載されている検査はほとんどなく,一部の施設で研究の一環として検査が行われて

いるのにとどまるのが我が国の実情である。また検査法は施設によりまちまちであり,標

準化されるには至っていない。さらに検査法にはそれぞれ一長一短があり,分子診断を有

効に活用するためには,それぞれの腫瘍の発生機序に基づいて解析法の特徴と限界を理解

することが必要になる。これからの国内の脳腫瘍診断における大きな課題の一つは,必要

な分子診断がより多くの施設で利用できるような体制づくりを進めていくことにある。ま

た小児に好発する脳腫瘍の多くは頻度が低いうえに,腫瘍型ごとに特異的な分子診断を必

要とすることが多く(後述),個々の施設で行うことは困難である。そこで現在,小児脳腫

瘍の症例を全国からいくつかの解析機関に集約して中央診断を行うシステムの開発が進め

られている。

今後,分子診断を臨床に取り入れていく上において留意すべきなのは,分子診断は病理

診断と相補的な関係にあり,確定診断は両者の統合診断integrateddiagnosis

3)

により行わ

れるということである。例えば髄芽腫の4型分類は,髄芽腫の病理診断が確定した腫瘍に

おいてのみ適用される。すなわち分子診断と病理診断は診断における車の両輪であると言

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第2部

脳腫瘍診断・病理カラーアトラス

脳腫瘍の分子診断