ステートメント

乳管内増殖性病変の病理診断に,免疫組織化学法(IHC法)は診断補助として有用で
ある。
IHC法が診断補助とならない病変が存在することに留意し,HE染色標本と併せた総
合的な診断を行うべきである。

 画像モダリティーの発展・普及により,乳管内増殖性病変の検出が増加している。それらには
良性〔乳管過形成(ductal hyperplasia;DH/usual ductal hyperplasia;UDH)〕,境界病変〔異型
乳管過形成(atypical ductal hyperplasia;ADH)〕から前浸潤癌状態である非浸潤性乳管癌(ductal 
carcinoma in situ;DCIS)までの広い病変スペクトルが含まれる。乳腺の大部分の病変は,HE染
色標本で十分に診断可能である。しかしながら,病理医間で診断がほぼ一致する完全な良性病変
と悪性病変に加え,診断上の境界病変とされる「異型病変」が存在する。乳頭状病変を含む乳管
内増殖性病変には,良悪性の鑑別が困難で専門医間の診断一致率が低い病変が存在し,治療選択
に影響を与え得る

1)2)

。近年,乳管内増殖性病変の診断一致と診断精度の向上のために,IHC法が

使用されつつある。

 従来,病理診断に関するIHC法は,主に浸潤癌か非浸潤癌かの鑑別のために用いられてきた。
種々の筋上皮細胞マーカーの検討では,それぞれ高い感度と特異度が報告されている

3)

。これら

の検討は,通常,「癌」の診断確定後に行われる。近年,良悪性の鑑別を含む診断再現性の向上の
ために,IHC法が利用されることがある。
 乳腺の乳管と終末乳管小葉単位は,乳管内腔側に位置する腺上皮細胞,基底型上皮細胞と乳管
の最外層に位置する筋上皮細胞の3種類の細胞から構成される。腺上皮細胞は中間径フィラメン
トであるサイトケラチン(CK)7,CK8,CK18,CK19を,基底型上皮細胞はCK5,CK6,CK14,
CK17を発現する

4)5)

。正常,良性,境界および悪性の乳腺病変に関する低分子量CK(CK8,CK18,

CK19)と高分子量CK(CK5/6,CK14)の発現状況の解析によると,UDHとADH/DCISでは高分
子量CKが異なる発現パターンを示す。UDHは過形成病変であるため高分子量CKを発現する細
胞が種々に混在し,ADHとDCISは単クローン増殖であるため高分子量CK発現細胞を含まな

6)~12)

IHC法では,UDHはCK5あるいはCK14がモザイク状の陽性染色パターン,ADHと

DCISは陰性パターンとなる(図1,2)。

陽性/陰性比率のカットラインとしては,10%あるいは

30%とする検討が多い。CK5/6やCK14と比較すると,カクテル抗体である34β E12はDCISに
対して最大で約30%の偽陽性を示すことが報告されており,混在する既存の良性上皮の陽性所見

乳管内増殖性病変の良悪性診断に免疫組織化学法は有用

か?

FQ 

5

背 景

解 説

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病理診断

FQ 5

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