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本邦では2011年調査までは厚生労働省難治性膵疾患調査研究班が,2016年調査では日本膵臓学会が主導し,急性膵炎全国疫学調査が約4〜5年おきに行われてきた(OS)1〜6)。2016年受療患者を対象とした最新の全国調査では,年間受療患者数は78,450(95%信頼区間:72,380〜84,520)人,人口10万人あたり61.8人と推計されている6)。2011年の年間推計受療患者数63,0805)人に比べて24%の増加であった。二次調査では2,994例に関する臨床情報が得られた。男女比は2.0,発症年齢は男性59.9歳,女性66.5歳であった。成因に性差がみられ,男性ではアルコール性(42.8%),胆石性(19.8%),特発性(16.2%)であったのに対し,女性では胆石性が37.7%と最多で,以下特発性(24.8%),アルコール性(12.0%)の順であった。厚生労働省急性膵炎重症度判定基準(2008)に基づき行われた本調査では,706例(23.6%)が重症,2,288例(76.4%)が軽症と診断された。重症例のうち429例(60.8%)は造影CT Gradeのみ,188例(26.6%)は予後因子のみ,89例(12.6%)は予後因子ならびに造影CT Gradeの両方で重症と判定された。初期治療においては,入院後24時間以内の輸液量が軽症例では平均3,297 mL,重症例では平均4,277 mLと重症度に応じた輸液管理が行われていた。経腸栄養は軽症例の17.2%,重症例の31.8%に施行されていたに過ぎなかったが,施行例のうち20.5%は48時間以内に,76.2%は1週間以内に開始されており,前回2011年調査に比べて早期に開始されていた。抗菌薬投与は軽症例の94.5%,重症例の98.7%と大部分の症例に施行されており,軽症例においてもカルバペネム系が40.5%の症例に投与されていた。このように早期経腸栄養の実施や予防的抗菌薬投与不要については,診療ガイドラインでの推奨がいまだ十分に理解されていないことがうかがわれた。図1に急性膵炎致命率の年次変化を示す。1982〜86年時から,年々,致命率の改善がみられていた。しかし,2008年に重症度判定基準が改訂され,重症は以前より重症度の高い症例に絞りこまれた形で改訂されたため,それ以前の2007年調査に比べ,2011年調査では,重症例の致命率の上昇がみられた。その後,2016年調査では,2011年調査で用いた重症度判定基準が使用されており,2011年調査と比べて急性膵炎全体の致命率は2.6%から1.8%へ,重症膵炎の致命率は10.1%から6.1%へと大幅な改善がみられた。これは,本邦における急性膵炎,特に重症膵炎管理の向上を示すものと考えられる。重症例の致命率は病院階層別では大学病院・救命救急センターでは9.1%から6.0%へ,病床数500床以上の施設では6.7% から5.5%へ,500床未満の施設では16.0%から7.0%へと,特に病床数500床未満の施設での致命率改善が顕著であった。18第Ⅱ章 全国調査結果からみた急性膵炎診療ガイドラインの課題と本改訂における対応1.急性膵炎の致命率は近年,著明に改善しているが,重症膵炎ではいまだ死亡例が存在していることが大きな課題である。今後,致命率の特に高い症例を適切に絞り込み,その予後を改善する必要がある。2.重症膵炎での致命率改善は発症2週間以内での改善が主たる要因であり,発症後期の改善は明らかではない。さらなる致命率改善のためには,発症後期の予後改善が急務である。3.早期経腸栄養の実施や予防的抗菌薬投与不要については診療ガイドラインが十分に理解されておらず,さらなる啓蒙が急務である。4.Pancreatitis Bundlesを7項目あるいは8項目以上遵守した場合,致命率が低かった。■解 説

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