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004  「頭が邪魔だ」 内視鏡手術時代になり,手術は術者であろうと助手であろうと看護師であろうと,みんな同時に同じ情報を共有できるようになった。昨日行った手術を今日,みんなで振り返ることができるようになった。手術で行われた動画情報は大きな価値を有している。 手術は暗黙知であるといわれる。だが,手術に導入された情報は蓄積され,解析されると,暗黙知は形式知に変換可能となる。すなわち手術を言語化し,視覚化することはおそらく,手術という以前はうまく説明できなかった治療行為をより客観的な作業に変換できる。そして手術は言葉になり,見えるようなものに変換されたとしたら,次の後進にそれを見せながら言葉で伝えることができる。すなわちトレーニングに応用できる。 現状の外科医のトレーニングは十分な環境にあるとは言い難い。動物を用いた外科トレーニング,カダバートレーニング,あるいはシミュレーターを用いたトレーニングなどを利用して,我々は外科医としての技術を高める努力をしてきた。しかし,手術手技のすべての工程を,我々が通常の手術で使う鉗子やデバイスを使って繰り返し,完遂できるトレーニングモデルはない。 このような外科医のトレーニング環境を改善したい,患者さんの手術をする前に,想定された外科手技をトレーニングする機会を増やしたいという外科医のニーズに対して,我々は「SIGMASTER」を開発した。SIGMASTERは手術を言語化し,視覚化できる有用なツールである。手術のなかで重要な解剖の把握,視野展開の重要性,剝離手技の会得,チームビルデイング,これらすべてを練習できるモデルである。かつ,人体でないモデルであるがゆえに,間違った手術手技を行ってしまった場合にどのような状況になるのか,どのようなデメリットを生じ得るのかも説明できる。 本書の最も大きな特徴は,このモデルを使ってすべての腹腔鏡下S状結腸切除術の手技を「言語化」し,その手術工程を完全に「可視化」したことである。SIGMASTERの作成には数年の歳月を要した。このようなモデルを作成したいという発想は以前よりあったが,なかなかよい出会いがなかった。そのようななかでジョンソン・エンド・ジョンソンの関係者の方々のサポート,何よりもEBM代表の朴栄光さんのあきらめない力に,この場を借りて感謝申し上げたいと思います。そして金原出版の片山晴一さんには言葉にならないほどお世話になりました。皆さんがいなかったら,この本は完成しませんでした。 そしてこの序文の最後に,僕のお祈りです。 「あした天気になあれ」 小学生が明日の遠足前に雨が降らないことを祈るように,僕が書いたこの本が皆さんに届き,少しでも多くの患者さんを笑顔にすることに役立てればと祈っています。2023年11月12日伊藤雅昭

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