20435T
14/16

1がん治療医の役割1)適切な情報提供とshared decision making 乳癌患者に「がん・生殖医療」を行っていくうえで重要な点は,治療方針が決定される過程において,将来の妊娠・出産に関する考え方を共有することである。患者が将来の妊娠・出産についての希望や興味を示した場合には,それぞれの治療による妊孕性への影響と妊孕性温存に関する情報を提供することが重要になる(具体的な項目は,本ガイドラインp5,「2)がん治療側から患者へ情報提供が望まれる項目」を参照)。また,治療中や治療後に妊娠・出産に関する考え方が変わる場合もあり,いつでも生殖医療についての情報提供を受けることができることを伝えておくことも重要である。 「がん・生殖医療」は一般の生殖医療と異なり,生殖医療と同じ時期にがん治療も行っていくことから,生殖医療に関する情報提供と意思決定を短期間のうちに行う必要がある。しかし患者は,がんと診断され自身の生命の安全を優先してがん治療を遅延なく行うことと,将来の妊娠・出産の可能性を残すという,相反する課題をもつことになり,その意思決定は容易ではないことが多い。また医師もその職業倫理として,患者の生命を最優先して医療を行うという使命をもつ一方で,患者の人格を尊重し希望を守るという使命も併せもっているため,患者だけではなく医師も大きなジレンマを抱えることになる。がん・生殖医療には多くの不確実性が存在するため,意思決定が困難であることが多いが,短い時間の中でも十分に患者と対話を行い,エビデンスを共有し意思決定するshared decision makingの考え方が重要となる。183 ここでは,乳癌患者のがん・生殖医療の実践にあたり,関与する医療者等に期待される役割について,患者の接する順に解説する。2)生殖医療や多職種との連携 がん治療において多職種との連携は不可欠であるが,がん・生殖医療においては意思決定にかかる時間が限られるため,その重要性はさらに増すことになる。 がん治療医は必ずしも生殖医療の知識に長じているわけではないため,妊孕性の評価や生殖補助医療についての具体的,専門的判断は生殖医療を担当する医師に委ねることになる。その際に必要な情報としては,標準的ながん治療の内容とその開始時期・期間,乳癌の状況から考えられる妊孕性温存に許容される時間等の情報であり,速やかに情報提供や患者の紹介ができるように,がん医療と生殖医療が速やかに連携できる体制を準備しておく必要がある。 がん・生殖医療において,患者は様々な悩みの中で決断を迫られることになるため,患者に近い存在である看護師の役割は特に重要である。看護師はがん治療医が気づかない患者の気持ちや社会背景,家族との関係を知ることも多く,意思決定を看護師が支援することで,医師と患者の情報共有をより深めることができ,患者にとっては情報の整理と自らの考えを表出することがでがん・生殖医療における,各々の立場からの関わり

元のページ  ../index.html#14

このブックを見る