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ivがんになっても母になりたい― 「乳がんになっても子どもを産めますか?」 これは,結婚の直前に乳がんの告知を受けた私が,最初に医師にした質問です。 私たち患者は,ある日突然がんと診断され,思い描いていた人生が一変します。命の不安と向き合いながら,それでも「がんになっても母になりたい」と子どものいる人生を思い描く仲間に,患者会活動を通してたくさん出会ってきました。 2014年に初版の『手引き』を初めて手にしたとき,がんであっても子どもを持つ未来を科学的にも許容された思いで涙があふれました。それから7年,エビデンスはさらに蓄積され,今回『診療ガイドライン』という形で発行されます。“乳癌患者の妊娠・出産に関する診療ガイドラインがある”というこの存在自体が,将来の妊娠・出産を望む多くの若年性乳がん患者とその家族にとって,“子どもを持てる未来”への希望となり,つらい治療に向き合う中で心の拠り所になるでしょう。 一方で,乳がん患者の妊娠・出産や生殖医療に関しては未だ不確実な要素が多いのも現状です。将来の妊娠・出産を希望しながらも,十分な情報にたどり着けない方や,意思決定に困難を感じ,支援が欲しいと感じている方がいます。その時の選択について,“本当にこれで良かったのか”と振り返って,心の痛みを感じることもあるでしょう。また,治療を受ける中でのライフスタイルの変化や時間の経過によって,子どもに関する希望や価値観が変わる場合もあります。国の小児・AYA世代がん患者等に対する妊孕性温存の経済的支援が開始され,費用の面で妊孕性温存が身近になる分,こうした悩みを持つ方が増える可能性があります。 本ガイドラインをもとに,医療者と患者の話し合いが十分に行われ,必要な患者への正しい情報提供と意思決定を含めた心理的支援が,住む地域や通う病院にかかわらず,また妊孕性温存に関する意思決定のタイミングだけではなく,がん治療中や治療後の妊娠・出産に関する意思決定のタイミング,さらにそれ以降も,隙間なく継続的になされることを願っています。 妊孕性温存をする選択も,しない選択も,子どもを持つ人生も,持たない人生も,みな等しく尊い価値があります。大切なのは,自分自身が納得し,進むことです。私たち患者一人ひとりに人生のストーリーがあり,妊娠・出産に関する想いや価値観は多様です。患者の多様な選択・価値観が尊重され,このガイドラインがその人らしい人生を歩むための支援の一助になることを心から願っています。 2021年8月若年性乳がんサポートコミュニティ Pink Ring 代表 御 舩 美 絵患者の立場から『診療ガイドライン』への期待

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