挙児希望を有する乳癌患者に対する生殖医療について23の影響はないと判断した。事前に資料を供覧し,委員全員の各々の意見を提示したうえで,議論および投票を行った。1)アウトカムの解釈について 妊娠率,生児獲得率は,乳癌の対照群(妊孕性温存をしなかった群)と直接比較した研究はなかったが,乳癌患者における胚凍結後の妊娠率・生児獲得率は,いずれも同年代の不妊女性症例と同等であるとの結果から,望ましい効果は10人中7人が「中」,3人が「小さい」と最終的に投票した。ただし,海外では代理懐胎による妊娠・出産が可能であることからデータの解釈には注意が必要であることが指摘された。 手技による合併症は,FertiPROTEKT登録データを含む2編の研究結果からも,主な合併症の発症率は0.15%11),2.7%10)であり,他の癌種も含まれる結果ではあるが,調節卵巣刺激および採卵の手技に伴う合併症の影響は全員が小さいと判断した。 手技完了までの期間については,本邦における症例集積報告からは,初診から採卵まで平均が44.3土49.8日との報告8)があったが,生殖医療への紹介までの期間や治療のタイミング,採卵回数等のバイアスが大きく,評価することは難しいという見解に至った。その一方で,採卵から治療開始までの平均期間が約2週間という報告9)があり,初回乳癌薬物療法の緊急性の観点から許容されるのではないかという意見があった。 DFSについては,1編の症例集積研究6)と2編の症例対照研究9)12),1編のコホート研究1)から評価したが,いずれも妊孕性温存により害となる報告は認めなかった。しかし,いずれの研究結果も観察期間中央値が2〜4年と限られていることや乳癌のサブタイプ別による検討がなされていないため,今後さらなるデータの蓄積が必要であると考えられた。2)アウトカム全般に対するエビデンスの確実性はどうか アウトカム全体のエビデンスについては初回の投票時は4人が「中」,8人が「弱」と判断した。DFSについては1編のコホート研究が評価対象となるが,議論の中で本CQの最も重要なアウトカムは生児獲得率であることを確認したうえで最終投票を行い,12人中7人がアウトカム全体に対するエビデンスの確実性は弱と判断した。3)患者の価値観や意向はどうか 患者の価値観に関する報告はなかったが,挙児を希望する乳癌患者にとって,乳癌薬物療法に伴う卵巣機能への影響を鑑みれば,治療開始前に妊孕性温存療法を行うことに対する関心は高いと考えられる。その一方で,採卵や調節卵巣刺激に伴う身体的負担や経済的負担,生殖医療に対する価値観等には個人差があり,妊孕性温存療法を行うこととの優先度については個々の患者の価値観にはばらつきが生じる可能性があるとの見解に至った。4)望ましい効果と望ましくない効果とのバランス エビデンスの確実性は低いものの,今回のシステマティックレビューの結果からは凍結胚移植あたりの出産率は乳癌でない同世代不妊女性の成績と比較して差がないとする報告からも,妊娠率・出産率の望ましい効果はあると評価できる。 望ましくない効果については,合併症率は一般不妊症例と同程度であること,妊孕性温存を施CQ11
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