Ⅰがん遺伝子パネル検査の分類本邦では2020年12月時点で,3種の遺伝子パネル検査システムが薬事承認されており,これらが保険診療で用いられている(表1)。これらがん遺伝子パネル検査は,検査上の性質の違いから,(マルチプレックス)コンパニオン診断と(包括的)ゲノムプロファイリング検査に大別され4, 5),「オンコマインDx Target testマルチCDxシステム」は前者(薬事上はコンパニオン診断薬[CDx]承認),「OncoGuide NCCオンコパネルシステム」は後者(薬事上は体外診断用医薬品[IVD]承認),「FoundationOne CDxがんゲノムプロファイル」は両方での使用が薬事上可能となっている。いずれも遺伝子変化を検出し,最適な薬物療法の治療方針を決定することを目的としている点は共通しているが,コンパニオン診断はすでにエビデンスが確立した標準治療へのアクセスを目的としている一方,ゲノムプロファイリング検査は研究開発段階にあるエビデンスがまだ十分確立されていない治療へのアクセスを目的としている(表2)。さらにコンパニオン診断については,臓器特異的(organ-specific)に用いる検査と,臓器横断的(tumor-agnostic)に用いる検査に分類される。総説1がん遺伝子パネル検査として開始され,当該検査に関する診療ガイダンス/ガイドラインが関係学会から複数発出されている1-3)。遺伝子パネル検査を用いた診療上の手順やその根拠等の詳細解説は,これら診療ガイダンス/ガイドラインに委ね,ここでは,遺伝子パネル検査で取り扱うバイオマーカーの薬事上および診療上の取扱い等に関する内容に絞り,概要について述べる。各バイオマーカーの詳細解説は本ガイドラインの各論の項を参考にされたい。これら遺伝子パネル検査では,ホルマリン固定パラフィン包埋組織検体を用いる仕様になっており,最小検出感度(LOD)等に基づき,検査実施に必要な組織中の腫瘍細胞含有割合が20%以上(推奨は30%以上)に設定されているのが標準となっている6)。LODについては,通常変異アレル頻度(VAFもしくはMAF)が3-10%となるように設計されており,とくにコンパニオン診断関連のホットスポットバリアントの検出は3-5%程度となっている場合が多い。ゲノムプロファイリング検査では,より複数種の遺伝子変化の検出が要求されるが,塩基置換(SNV)と挿入・欠失(short INDEL)か,挿入・欠失の場合には近傍にホモポリマー(5bp反復以上)が存在するかによってLODの範囲は異なり,また塩基置換であっても,LODは個々のバリアントごとに異なることから,こうした分析性能の把握が必要となる7)。コンパニオン診断とは異なり,ゲノムプロファイリング検査では,検査の実施体制,検査に供する検体の品質管理,患者への検査説明,二次的所見を含む検査結果の取り扱い,エキスパートパネルでの検討事項,検査結果に関する複数のレポート作成と返却,遺伝カウンセリングの提供体制など,検査の実施に必要な事項は広範かつ多岐にわたり,これまでの検査の枠組みとは大きく異なるものとなっている。こうした背景を受け,2017年10月に日本臨床腫瘍学会,日本癌治療学会,日本癌学会の3学会合同で発出された「次世代シークエンサー等を用いた遺伝子パネル検査に基づくがん診療ガイダンス」が検査の標準化に向け2020年3月に改訂された1)。またコンパニオン診断の係るガイドライン・ガイダンスも関係学会から新たに発出された(表3)2, 3)。総説 3
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