121 高度催吐性リスク抗がん薬に対する予防的制吐療法は,5‒HT3 受容体拮抗薬,NK1 受容体拮抗薬,デキサメタゾンの3剤併用療法であったが,オランザピンを含む4剤併用療法が3剤併用療法よりも有意に急性期と遅発期の悪心・嘔吐を抑制することがランダム化第Ⅲ相比較試験で示され,オランザピンを含む4剤併用療法が標準的な予防的制吐療法として新たに加わった(→BQ1,CQ1参照)。ただし,オランザピンは本邦では糖尿病患者には禁忌(海外では慎重投与)であり,臨床試験では75歳以上の後期高齢者における使用実績がないため,オランザピンの併用については患者ごとに適応を検討する必要がある。 また,AC療法においてはデキサメタゾンの投与期間を短縮可能(遅発期のCR割合における3日間投与に対する1日目のみ投与の非劣性)というエビデンスが示されたが,AC療法以外の高度催吐性リスク抗がん薬ではエビデンスがないことに注意する(→CQ2参照)。 オランザピンを用いない3剤併用療法を行う場合やデキサメタゾンの投与期間を短縮する場合の5‒HT3 受容体拮抗薬の選択は,遅発期悪心・嘔吐に対して第1世代よりも有効性の高い第2世代のパロノセトロンを優先する(→BQ2参照)。 R±CHOP療法は高度催吐性に相当するレジメンであるが,高用量のプレドニゾロンが抗がん薬として使用されることから,5‒HT3 受容体拮抗薬とプレドニゾロンの2剤をもってR±CHOP療法に対する制吐療法とされてきた経緯があったため,R±CHOP療法に対するNK1 受容体拮抗薬投与の妥当性についてCQ7で解説した。2 中等度催吐性リスク抗がん薬に対する予防的制吐療法は,5‒HT3 受容体拮抗薬,デキサメタゾンの2剤併用療法である。一方,中等度催吐性リスク抗がん薬のうち,カルボプラチン(AUC≧4)を含む38 Ⅲ.急性期・遅発期の悪心・嘔吐予防 予防的制吐療法に用いられる制吐薬は,急性期に有効な5‒HT3 受容体拮抗薬,NK1 受容体拮抗薬,デキサメタゾン,遅発期に有効なNK1 受容体拮抗薬,デキサメタゾンである。また,かつて制吐目的に適応外使用されていた非定型抗精神病薬のオランザピンが,公知申請を経て,2017年に本邦でのみ,「抗悪性腫瘍剤(シスプラチン等)投与に伴う消化器症状(悪心,嘔吐)」に対して保険適用になり,急性期・遅発期ともに有効な新たな制吐薬として使用可能になった。抗がん薬の催吐性リスクに応じて,これら制吐薬の組み合わせ,投与期間,投与量が決められている(→ダイアグラム参照)。 今版における改訂のポイントは,国内外のランダム化第Ⅱ・Ⅲ相比較試験により,高度および中等度催吐性リスク抗がん薬に対して,オランザピンを含む予防的制吐療法が開発されたこと(→CQ1,4,5参照),遅発期のデキサメタゾン投与省略のエビデンスが示されたこと(→CQ2,6参照),中等度催吐性リスク抗がん薬に対するNK1 受容体拮抗薬の予防的投与について新しいエビデンスが示されたこと(→CQ3参照),である。 前版までに掲載されたエビデンスにこれらの新しいエビデンスを加え,推奨される制吐療法の基本情報を抗がん薬の催吐性リスク別に解説した(→BQ1~5参照)。概要抗がん薬の催吐性リスクに応じた予防的制吐療法高度催吐性リスク抗がん薬の悪心・嘔吐予防(→ダイアグラム1参照)中等度催吐性リスク抗がん薬の悪心・嘔吐予防(→ダイアグラム2参照)
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