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 2002(平成14)年に厚生労働科学研究費補助金 研究報告書として作成された“科学的根拠に基づく乳がん診療ガイドライン作成に関する研究”が,現在の乳癌診療ガイドラインの始まりである。その後,ガイドラインの作成は日本乳癌学会(以下,本学会)に移管され,臨床試験検討委員会が担当して2004年と2005年にそれぞれの分野別(薬物療法,外科療法,放射線療法,検診・診断,疫学・予防)に5つの冊子として初版が刊行された。そして薬物療法は3年ごとの2回の改訂,その他4冊は3年後の1回の改訂を経て,2011年に現在の体裁と同じ,治療編と疫学・診断編の2分冊として発刊された。その後も日々蓄積されるデータと標準治療の変化に対応すべく改訂の間隔を2年ごととして,2013年,2015年と改訂版を発刊してきた。2011年には会員向けとして乳癌診療ガイドラインWEB版を公開し,2015年からこのWEB版はすべての人が自由に閲覧できる公開版となっている。また,他のがん種のガイドラインに先立ち,2009年には患者さんやそのご家族に読んでいただくことを目的とした「患者さんのための乳がん診療ガイドライン」の初版を発行し,これも医師向け乳癌診療ガイドラインの約1年遅れで2~3年ごとに改訂版を発行している。 乳癌診療ガイドラインは初版から,科学的根拠に基づいたガイドラインとして,多くの臨床試験等のデータのレビューを行い,そのデータの「エビデンスレベル(試験デザインに基づいたエビデンスの評価)」によって信頼性を担保したうえで,エキスパートの作成委員が協議し,ガイドラインの執筆を行い,推奨に迷うクリニカルクエスチョン(CQ)では,作成委員会の中で投票が行われ,A,B,C1,C2,Dの「推奨グレード」を決定してきた。2004年というガイドライン黎明期に行われたこれらの作成手順は,他領域の関連学会からも高く評価され,その後の各ガイドライン作成に影響を与えている。また「患者さんのための乳がん診療ガイドライン」は,乳癌経験者や看護師,薬剤師など,多職種が執筆者として参加するガイドラインとして作成され,患者さんに信頼される情報源として重要な役割を果たしている。 一方,2015年版の乳癌診療ガイドラインまでは,大規模ランダム化比較試験(RCT)で有意な結果が得られたCQや,複数試験のメタアナリシスデータがあるCQは,レベル1のエビデンスが存在するという理由で「強く推奨する」とされてきた。すなわちこの基準においては,主として効果におけるアウトカムの差が確実に存在するかが重要であり,その効果を得るためにどれくらいの毒性の上乗せを許容できるのか,その効果の差は本当に臨床的に意味のある差なのかなど「有益性と有害性のバランス」がとれているかについては十分検証されていなかった。 このような状況の中,世界的なガイドライン作成の標準化の流れの中で,2015年版まで使用してきた乳癌診療ガイドラインの作成手順を変更する必要性が生じた。2018年版の乳癌診療ガイド1.乳癌診療ガイドライン作成の経緯2.2018年版からの乳癌診療ガイドライン作成方法の変化乳癌診療ガイドライン2022年版作成にあたって―診療現場で役立つ,医師と患者のShared Decision Makingのためのガイドラインを目指して―

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