20443T
13/18

A.視床下部・下垂体1)視床下部・下垂体の病態生理 視床下部は,大脳半球の中心部に位置する間脳にある視床の前下方に存在する。視床下部の機能には,自律神経系および内分泌系の中枢としての役割に加え,体温調節や体液・浸透圧の調節,睡眠・覚醒,摂食・摂水,性行動,情動といった生命活動の中心的役割を果たしている(表1)。 図1に示すように,視床下部神経細胞で合成された視床下部ホルモンは,下垂体門脈を通って下垂体前葉に運ばれ前葉細胞を刺激して下垂体前葉ホルモンを分泌する。一方,下垂体後葉ホルモンは,視索上核・室傍核の視床下部神経細胞で合成され,下垂体後葉に投射している神経終末から分泌される。下垂体ホルモンの調節機構について下記にまとめた(表2)。2)下垂体機能低下症の診断 下垂体機能低下症の診断では,下垂体前葉ホルモンに加えて,それら標的内分泌ホルモンの血中濃度の測定が重要となる(図2)。検査値に異常が認められる場合は,下垂体ホルモン刺激試験や必要に応じてMRIなどによる画像検査を組み合わせることで診断がされる1)。3) 免疫関連有害事象としての下垂体機能 近年,免疫チェックポイント阻害薬(immune checkpoint inhibitor;ICI)が種々の悪性腫瘍に保険適用となり,その使用が拡大している。現在使用されているICIには,抗CTLA‒4抗体薬と抗PD‒1抗体薬がある。これらの薬剤は,自己の免疫抑制機能を阻害し,がん細胞に対する免疫応答を高めることで,抗腫瘍効果を示す。その作用機序ゆえにICIには,免疫関連有害事象(immune‒related adverse events;irAE)すなわち活性化した免疫が自己の正常組織を攻撃する自己免疫疾患を起こし得ることが考えられる。 これまでに,さまざまなirAEの発症が報告されているが,その中の一つに内分泌障害の下垂体機能低下症がある。下垂体機能低下症は,抗CTLA‒4抗体薬での発症報告が多く,頻度は5~17%程度とされ,発症時期は6~12週が多い。臨床的特徴が自己免疫性視床下部下垂体炎に類似していることと,薬剤の作用機序から下垂体における自己免疫性の炎症が原因とされている。 症状は,易疲労性,脱力感,食欲不振,体重減少,消化器症状,血圧低下,精神障害,発熱,低血糖症状,関節痛,視野障害と非特異的である。なかでも易疲労性等の症状は原疾患によるものと誤認される可能性もあり,ICIを用いた治療に際しては,下垂体機能低下症が生じる可能性を認識しておく必要がある。 ICIによる下垂体機能低下症では,副腎皮質刺激ホルモン(adrenocorticotropic hormone;ACTH)分泌低下症の頻度が最も高い。下垂体ホルモンおよびその標的臓器ホルモンの基礎値の低下,または各種分泌刺激試験における反応性の低下を認める場合に,ICI関連脳下垂体機能低下症と診断される。自己免疫機序が原因であるため副腎皮質ホルモンの投与が有効とされている。斎藤顕宜,奥出有香子,河本怜史,小茂田昌代,清水 忠下垂体内分泌系調節生命活動調節内分泌機構主な機能視床下部自律神経系調節表1 視床下部・下垂体の機能部位A.視床下部・下垂体219低下症について10内分泌・代謝(免疫関連有害事象,放射線療法,手術療法などがん治療に伴うもの)

元のページ  ../index.html#13

このブックを見る