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ある。家族関係とともに,それぞれが何に価値をおいて発言しているかをアセスメントし,その思いを互いに共有できるように導くことが解決の糸口となることがある。 看護師には,患者の思いを引き出す力,変化を見逃さない観察力,言葉の裏に隠された思いを見抜く洞察力などの高いコミュニケーション能力が求められる。 患者・家族を中心としたチーム医療を行ううえで,薬剤師は担当医の考え方を十分に理解したうえで患者・家族との対話に臨むことが重要である。a)治療選択 治療の選択で迷っている患者・家族の本当の迷いの原因は何か,担当医の考え方は十分に伝わっているか,患者を含めた家族が大切にしている価値観は何かなどさまざまな問題を薬の専門家あるいは医療者のひとりとして受け止めることが必要である。また,患者・家族との対話の中で得た情報は速やかにチームで共有するように心掛ける。b)症状緩和 一方,症状緩和においては,がんによる不快な症状や抗がん薬の副作用による症状に対して薬物で対応可能なものであるかの判断をし,患者が薬物治療を望む場合は速やかに担当医へ処方提案を行う。患者・家族によっては,薬物治療による症状緩和を望まないこともあるため,患者・家族の意向確認は処方提案の前に必ず行う必要がある。また,患者・家族への説明の際にも,担当医が処方に同意するとは限らないため,薬物治療に対する期待を高めるような説明は慎む。c)がん薬物療法の中止 時にはがん薬物療法の限界を共有する場面にも遭遇するが,逃げることなく,むしろ先頭に立って取り組むべき課題である。d)医療用麻薬を開始する場面 医療用麻薬を開始する場面では,患者の身体的苦痛を取り除くことだけでなく,麻薬に対するさまざまな負の感情を受け止め,患者・家族が前向きに痛みの治療に臨むことができるようにする。医療用麻薬の初回処方の際には,不必要な制吐薬・下剤・レスキュー薬の説明は,患者・家族にとって医療用麻薬に対する負のイメージが大きくなるため処方を避けることが考慮される。初回説明は鎮痛効果に焦点をあて,痛みが軽減することで,患者にとって良くなること(例えば,睡眠が確保できるようになることや,歩行が容易になることなど)を説明し,副作用は事前の説明より頻回な訪室により確認することが重要である。 これらのことは,入院中は病院薬剤師が,通院中は薬局薬剤師が担うべき問題であり,両者の連携は不可欠であり,退院の際は薬局薬剤師との共有も必要になる。Ⅰ.総論 5.支持医療の担い手とコミュニケーション(松井優子)(岡本禎晃)76薬剤師の関わり患者・当事者の関わりa)サバイバーシップケアプラン がん治療の向上は治療成績の改善(生存率やQOLの向上)をもたらすとともに,がんサバイバーへの医療やケアのニーズへの対応の必要性を投げかけている。例えば,治療に伴う後遺症へのケア,再発や二次がんの有無についてのフォローアップ,晩期合併症への対応,心理社会的な支援などが含まれる。米国医学研究所(IOM)はサバイバーシップケアプランを提示し,がんサバイバーのQOLを高めることの重要性を示している(表1)。 継続的なフォローアップにおいては,がん治療医の関与の度合いは減る一方で,プライマリケアを担う総合医・かかりつけ医の役割が大きくなる可能性がある,さらには看護や薬剤など多職種での関わりが長期的に必要になる。サバイバーによって,必要最小限のフォローアップや受診を希望する場合もあれば,頻回に検査や治療,継続的なケアを必要とする場合もある。このように,サバイバーシップケアプランはひとりひとりの医学的な背景に加え,心理社会的な状況を踏まえて多様である。ウェブ上での情報共有や,小児がん患者グループにおいて長期間のフォローアップや成人診療科への移行医療などの取り組みがなされている。サバイバーの健康状態・社会的な状況に応

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