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■参考文献 1) Mullan F. Seasons of survival:reflections of a physician (文献2より引用)治療に参加をし,治療を選択し,チームの一員として治療に参画していくことが求められる。患者は科学の専門家ではないが,自分の専門家なのである。 本書の中でもたびたび登場する「がんサバイバーシップ(cancer survivorship)」という概念は,1985年,アメリカ人医師のF. Mullanが,32歳で罹患(縦隔胚細胞腫)した自身のがん体験を基にしたエッセイ「Seasons of survival:reflections of a physician with cancer」をニューイングランド医学雑誌に投稿したことから始まる。 彼はその寄稿の中で,「がん体験は,結果として治癒したかどうかという最終的な帰結よりも本人が診断後を生きるプロセスと捉えるほうが適切である」と述べ,治療成績ばかりを重視した当時の医療を「生存率の向上を目指すばかりで治療が引き起こす諸問題を顧みないのは,先進技術を使って溺れる人を水から引き揚げた後,咳き込んで水を吐くその人をそのまま放置しているようなものだ」と表現をし,治療を中心とした急性期だけではなく,中長期的なケア,そして,そこに患者や社会が関わることの大切さを述べている。この言葉は,35年以上を経過した今日でも,むしろ,今日だからこそ振り返る必要がある言葉であろう。 チーム医療において大切なことは,互いの職種の見立てを認め合い,職域のにじみ出しをカバーしあうことである。副作用症状についてはしばしば「仕方がない」という言葉が使われがちである。「仕方がない」ことを,「仕方がある」ことへ変換するためにも,がん診療やケアの研究開発を含めたあらゆるプロセスに患者,家族が関わりをもつ機会が求められており,患者・市民参画(patient and public involvement;PPI)推進の広がりが求められる。 3) 治療の開始日と終了日 4) 手術,化学療法,放射線治療,移植,ホルモン治療,遺伝子などの治療方法と用いた薬剤,治療レジメン,用量(総用量),臨床試験(臨床試験のIDを含む),治療効果,有害事象 5) 心理社会的,栄養など,実施されたサポートの状況 6) 治療実施施設と主な医療職の連絡先 7) 近親者が知っておくべき高リスクのがんや検査のフォローアップ施設と連絡先(大腸がん,乳がん,前立腺がんなど) 8) 包括的なサーベイランスや予防的な治療や手術で恩恵を受けられる可能性のある遺伝カウンセリングや遺伝学的検査の情報 9) 適切な二次がんの予防治療に関する情報(例えば,乳がんに対するタモキシフェンや,大腸がんに対するアスピリンなど)10) がんに関する医療・介護資源や情報(例えば,主ながん患者支援組織に関するインターネットの情報や電話番号リスト)がん治療後退院するにあたり,すべての患者はこれまで受けたあらゆるケアや病状に関する記録を受け取るべきである。この記録には最低限以下の記載が必要である。 1) 実施された診断的検査とその結果 2) がんの性状〔部位,病期(ステージ),グレード(悪性度),ホルモン受容体,分子マーカーなど〕A.チーム医療・地域包括ケア・Team STEPPs with cancer. N Engl J Med. 1985;313(4):270‒3. 2) IOM Report:Hewitt M, Greenfield S, Stovall E. From Cancer patient to Cancer Survivor:Lost in Transition. National Academy Press, 2006. 3) Feuerstein M, Nekhlyudov L. Handbook of Cancer Sur-(桜井なおみ)表1 サバイバーシップケアプランじて切れ目のない治療やケアが提供できる体制整備が重要である。(1) 患者・当事者が診療やケアのプロセスに参画すること 分子標的薬,免疫チェックポイント阻害薬(immune checkpoint inhibitor;ICI),ゲノム医療など,がん治療に関わる技術の進歩は目覚ましい。一方,その診療の形態も入院を中心とした治療から外来中心のがん医療へと大きく変化をし,患者が医療従事者と触れ合う時間は,10年前と比べて短縮傾向にあると思われる。また,「治療を患者が選ぶ」時代から,時として「治療から患者が選ばれていく」時代にもなっている。 患者は治すために治療を受けているのではなく,生活を続けるために治療を受けている。治療は人生を構成する一つのパートにしかすぎず,患者は「がん患者」という役割だけを担っているのではなく,親,子,会社員など,社会の中でのさまざまな役割をもって生きている。そのため,患者,家族が罹患後の人生を「納得して生きていく」ためには,医療者だけではなく,患者自らが能動的に77

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