20443T
8/18

1)はじめに 支持医療とは,がん治療早期における治療の副作用対策から緩和ケアまでを包括した意味をもっている。従来この領域は科学的根拠がさほどなくても患者を救うことへの熱意やその場の医師の裁量が許容される,というよりはそれこそがすばらしいといったように評価されてきた。しかし,21世紀になり世の中に根拠に基づく医療(evidence based medicine;EBM)の重要性が認知されてきた昨今はこの領域にもしっかりと科学的な根拠に基づいたケアが必要であると認識されつつある。 研究においては言葉の定義をしっかり定めることが何より大切である。例えば「良好だった」とした場合に,何と比べて良好だったのか,その項目が良好だったのか,60%は良好なのか,など「良好だった」についても何をもって「良好であったか」を示す必要がある。 こういった背景をもとに本項では研究で用いる言葉の定義を確認する。また,支持医療は一診療科一職種では難しく,多職種が協働して行うことが求められる。よって,臨床研究も多職種横断での実施になるが,これについては通常の臨床腫瘍学領域では経験の少ないものであるため,円滑に臨床研究を進めるために何が必要なのかという部分についても解説する。2)支持医療関連研究における言葉の定義 現在,この領域での大きな問題は定義の不明確な用語が多く存在することである。多職種連携で作業をする場合,言葉の定義が各々の職種診療科で異なっていると誤解を生じるもととなり,結果的に患者が不利益を被ることが多いので要注意である。ここでは大半のメディカルスタッフが曖昧に使用している言葉について取り上げる(図1)。a)支持医療 「supportive careの日本語訳は何か」この問いに対してほとんどの医療従事者が支持療法と答えるだろう。一方,supportive careという言葉をNCI Dictionary(https://www.cancer.gov/publications/dictionaries/cancer-terms)で検索すると命の危険にさらされた患者のQOLを改善するケアであり,comfort care, palliative care, symptom manage-mentと同義であるとされている。supportive careには支持療法と緩和ケアの両方が含まれており,JASCCではこれを支持医療と訳している。b)支持療法 いわゆるがん治療で発生する副作用対策という意味での支持療法は正しくはsupportive care for toxicities arising from cancer treatmentとなる。 支持療法・緩和治療領域研究ポリシー(Ver1.1)では,支持療法はがん治療cancer treatmentで発生する副作用に対して予防もしくは症状軽減を目的として行う治療を指す。副作用には,治療後の合併症や後遺症を含むと定義されている。具体的には,化学療法誘発性悪心・嘔吐(chemotherapy‒induced nausea and vomiting;CINV),発熱性好中球減少症(febrile neutropenia;FN),化学療法誘発性末梢神経障害(chemotherapy‒induced peripheral neuropathy;CIPN),放射線による皮膚炎,術後創部痛,術後せん妄などに対する治療を指す。c)緩和治療 支持療法・緩和治療領域研究ポリシーでは,がんそのものによる症状に対する介入を緩和治療と定義している。英語ではpalliative care for symp-toms arising from cancerと少し長いがsymptoms arising from cancerを付けたほうがわかりやすい。 例えば,がん疼痛(cancer pain),がん性腹膜炎による悪性消化管閉塞(malignant bowel obstruc-全田貞幹,岡野朋果12911支持医療の研究

元のページ  ../index.html#8

このブックを見る