すべての疾患,治療における支持療法の目的は,本治療で出現する有害事象,合併症による被害を最小限にし,本治療のポテンシャルを最大限に引きだすことにある。 有害事象,合併症に対してのアプローチは,大きく分けて予防的介入(prevention/prophylactic intervention)と対症的介入(symptom manage-ment)の2種類がある。研究ではそれぞれの目的Ⅰ.総論 11.支持医療の研究根治/延命本体治療によって出現本体治療図1 用語の定義に関する概念図研究領域での用語の定義がんがんによる手術,放射線治療薬物療法vention諸症状合併症副作用後遺症予防/対症予防/対症緩和治療支持療法支持医療に応じたエンドポイントを設定することが大切である。a) 予防的介入:prevention/prophylactic inter- 予防的介入とは有害事象,合併症が出現する前から行う介入を指す。 予防的介入は原則的には何も起きていない状態から開始することになる。この場合,発生する有害事象,合併症の頻度によっては,何もしなくても有害事象,合併症が起こらない患者に対しても介入を行っている可能性があり患者の利益になっていないということについても常に頭に入れておくことが必要である。こういった事象を避けるためにはプラセボ対照を含むコントロール群との比較は必須になる。 予防的介入での一番の目標は「有害事象/合併症の頻度を下げる」ことである。予防的介入の結果により,従来の方法より有害事象/合併症の頻度が下がれば予防的介入の価値があるといえる。(1)予防的介入の代表例 悪心・嘔吐 抗がん薬で発生する悪心・嘔吐について(特に高催吐性リスク)は予防的に対応することが標準となっている。最近では従来の3剤(ステロイド,5‒HT3阻害薬,NK1受容体拮抗薬)に加えオランザピンが有効であることが示唆されている。海外では当初オランザピン10 mgが提案されていたが眠気など支持療法そのものによる副作用も確認されていたためわが国で従来の3剤にオランザピン5 mgを加えたレジメンを検証するJ‒FORCE試験(J‒SUPPORT1604)1)が行われ710名の患者がプラ130tion;MBO),がん関連倦怠感(cancer‒related fatigue;CRF),がんによる呼吸困難に対する治療などを指す。d)緩和ケア 緩和ケアは,「生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して,疾患の早期からの痛み,身体的問題,心理社会的問題,スピリチュアルな(霊的な,魂の)問題に関してきちんとした評価を行い,それが障害とならないように予防したり対処したりすることで,QOLを改善するためのアプローチ」と世界保健機関(World Health Organization;WHO)が定義*している。研究を行う際には言葉の意味が広すぎるために多科多職種間では齟齬を生む可能性の高い用語であるため,支持療法や緩和治療を包括して緩和ケアもしくは支持医療と呼ぶことはあるもののあまり使用しない方がよい。あくまで研究を行う際のことであり臨床での使用は問題ない。*参照:World Health Organization. WHO Defini tion of Palliative Care[Available from:https://www.who.int/health-topics/palliative-care]e)がん治療または本体治療 がん治療cancer treatmentは,抗腫瘍効果を目的とした治療,すなわち,外科治療,がん薬物療法,放射線治療を指す。がん治療はcancer treat-mentの日本語訳であるが,単に「がん治療」と記載すると,がんに関わる治療全般のことを指すことや,研究計画書では薬物療法の「抗がん薬治療」と誤読することも多いため,副作用を起こす本体の治療という事で本体治療と呼称することを勧める。本項でも以後,本体治療と呼称する。3) 介入の種類とエンドポイント設定について
元のページ ../index.html#9