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iv序 文私が外科医となって早いもので40年が過ぎました。今から31年前の1991年に手術創を最小化する腹腔鏡下手術に出会い,恋をしました。その当時,10年目の若さで地域医療を求めて開業することを検討していた私の外科医人生は大きく変化し,開業は中止,この腹腔鏡下手術の普及と確立を人生のlife workとすることを決意しました。2005年には日本内視鏡外科学会(JSES:Japan Society for Endoscopic Surgery)のJSES技術認定をヘルニアではなく,胃癌で取得しました。その後,胃癌,大腸癌の腹腔鏡手術,胃癌のダビンチによるロボット支援手術を含め,1,000人以上行ってきました。2000年当時の私の将来に向けた目標は,一般臨床病院におけるGeneral Laparoscopic Surgeonの育成でした。つまり,それまでは開腹手術で修練してきた胃癌,大腸癌,ヘルニア,胆石症,虫垂炎などの代表的な外科疾患すべてを腹腔鏡下手術で治療できる外科医を育成することでした。JSESの最新の第15回アンケート調査によると,1991年に日本で始まった腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術(本書では以後 ラパヘル)は,2019年の現在では21,706症例に施行され,鼠径部ヘルニア治療の標準術式の代表的な一つとなりました。1991年の開始当初は,腹腔鏡下胆嚢摘出術(ラパコレ)と同様にラパヘルも日本中に大きく広がっていきました。その後,ラパヘルは手術の難易度が高い,手術時間が長い,教育が難しい,全身麻酔が必要であることなどから次第に敬遠され,同時期に普及したメッシュプラグ法などのten-sion free術式に圧倒されるようになり,1996年をピークに10年ほど衰退していきました。私は腹腔鏡下手術の恩師である松本純夫先生のラパヘル手術書を参考に,1993年から胃癌,大腸癌手術と同時にラパヘルを開始しました。当初から,ラパヘルは術後疼痛の緩和・早期社会復帰などの術後QOL(Quality of life)が改善できる重要な術式であると高く評価していました。ラパヘル開始後は腹腔鏡下手術が圧倒的に患者のQOLを改善することを肌で学び,将来的にほとんどの外科手術が腹腔鏡下手術に置き換わり,近い将来に外科手術の中心となる時代が必ず来ることを若くして確信しました。その中でも,ラパヘルをGeneral Laparoscopic Surgeonの育成に最重要の腹腔鏡下手術と位置付けました。ラパヘルを日本中に普及させるために,一般外科医に向けた鼠径部筋膜解剖構造の究明,標準的な手術術式の改良と確立,難症例への対応,L型特殊タイプであるde novo L型ヘルニアの認識と周知,若い外科医への継続性のある教育法の確立などに長い間取り組んできました。2022年までの外科医生活40年間に5,000例以上のTransabdominal Preperito-neal Repair(以後 TAPP)を経験してきました。その間に教育講演,ビデオシンポジウムでの発表,動物による実技講習,日本中の臨床病院への直接の手術指導,多数の手術手技書の作成などを行い,また200名を超える全国の外科医が私の施設に手術見学にみえました。この書籍では,一般外科医に知っていて欲しい私が培ってきたTAPPのすべてを網羅しました。基礎編では,日本や世界の歴史,分類,ガイドラインなどに加えて,鼠径部解剖の理論,de novo L型の概念,手術時の準備や術中・術後の重要なポイント,標準的なL型・M型・F型・女性ヘルニアに対する手術理論,手術手技,技術認定試験への考え方などの詳細を解説しました。早川独自理論によるHayakawa Tetsushi理論のTAPP(以後 T-TAPP)の経験から得たすべてを集約しました。日本全国の講演やセミナーで発序 文

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