82元素を使用する場合,その量は非常に微量なため,人体に悪影響はほとんどありません。センチネルリンパ節生検でもリンパ浮腫(術後の腕のむくみ),腕やわきのしびれや痛みなどが起きる可能性はありますが,腋窩リンパ節郭清によるものと比べて明らかに少ないことも報告されています。したがって,浸潤がんの可能性がある場合には,センチネルリンパ節生検を行ったほうがよいと考えられます。一方,浸潤がんの可能性が少ない場合には,まず乳房部分切除術を行い,病理検査の結果,浸潤がんが認められた場合に,センチネルリンパ節生検を行うかどうかを判断することも可能です。ただし,乳房全切除術が行われる場合や,乳房部分切除術であっても,腫瘍が乳房の外上側に広範囲に存在する場合などには,後日,センチネルリンパ節生検を行うことが技術的に難しいため,乳房の手術と同時にセンチネルリンパ節生検を行うことが勧められます。術前化学療法後のセンチネルリンパ節生検術前化学療法を行う患者さんに対するセンチネルリンパ節生検は,術前化学療法前の画像診断などにより腋窩リンパ節転移がないと判断された患者さんでは,術前化学療法の前あるいは後のいずれでも実施可能です。一方,術前化学療法前に腋窩リンパ節転移があった患者さんでは,たとえ術前化学療法後の画像診断で腋窩リンパ節転移が消失したと考えられても,通常のセンチネルリンパ節生検の信頼性は不十分である可能性があり,現時点では腋窩リンパ節郭清省略が標準的な方法とはいえません。センチネルリンパ節生検の信頼性を向上させるために,もともと転移と診断されたリンパ節に目印をつけてそれを確実に摘出する,通常のセンチネルリンパ節生検よりも多めにリンパ節を摘出するといった工夫が必要とされています。非浸潤がんの場合がん細胞が乳管・小葉の中にとどまっている非ひ浸しん潤じゅんがんの場合には,理論的にはリンパ節転移は起こらないため,腋窩リンパ節郭清はもちろんのこと,センチネルリンパ節生検すら行う必要はないと考えられます。ただし,非浸潤がんかどうかを手術前に正確に診断することは困難です。手術前の針生検で非浸潤がんと診断されても,しこりが触れる場合や範囲が広い場合などには,そこに小さな浸潤(乳管の外にがんが出ている部分)が含まれている可能性があります。
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