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a.全身状態の評価 患者の年齢や併存症等により,平均余命はそれぞれ異なる。判明した進行・再発乳癌により期待される余命よりも予後が短くなる可能性,あるいは症状の発現や進行によりQOLの低下をきたす可能性,そして治療によりどの程度の効果を期待可能かを評価する。進行・再発乳癌の治療は薬物療法を主体とした集学的治療が基本となるが,加齢,併存症や併用薬,全身状態に伴い薬物動態にさまざまな影響が生じる。薬剤の選択は候補治療薬のなかから毒性プロファイルと患者特性を考慮し判断する。がん薬物療法の有害反応はときに重篤であり,進行固形癌に対する薬物療法の治療関連死亡率は1%とされるが,これらはperfor-mance status(PS)が良好で,中等度以上の臓器障害がない方を対象としたデータである。 かつてホルモン受容体陽性乳癌治療のアルゴリズムではlife‒threateningの場合,化学療法の適応があるとされた。しかし,“life‒threatening”の定義は明確ではなく,現在,NCCNのガイドラインではsymptomatic visceral disease,ABC5のコンセンサスガイドラインではvisceral crisisという用語が用いられている1)2)。Visceral crisisの定義は内臓転移の有無のみならず,それに伴う臨床症状,血液生化学検査などに基づく評価により,急激な増悪がみられる場合とされており,臨床症状・検査値異常の評価が重視されている。さらに,進行した症例では,緊急の対応を要する病態“Oncologic Emergency”の可能性を念頭に置いて診療にあたる必要がある。b.癌の状態の評価 進行・再発乳癌の治療法の選択には,これまでどのような治療を行ってきたか,現在どの部位に転移・再発があるのか,病変に伴う症状があるか,今後どのような症状の発現が危惧されるかなどに加え,サブタイプやコンパニオン診断となる因子の評価が欠かせない。画像診断で他臓器に転移や再発が疑われた場合に,転移ではない可能性,あるいは再発・転移であっても,治療によるバイオロジーの変化や腫瘍の不均質性などによりサブタイプが原発巣とは異なって評価される可能性もあるため,可能な限り生検を行い,病理学的評価およびサブタイプの再評価を行う。 ホルモン受容体陽性,HER2陰性の場合には,内分泌治療を軸とした治療が第一選択となる(図1)。内分泌治療不応性,あるいは急速な病勢進行が予想されるか認められる場合(symptomatic vis-ceral disease/visceral crisis)は化学療法を検討する。HER2陽性乳癌では抗HER2治療の実施は生存期間の延長が期待できる。トリプルネガティブでは近年,PD‒L1発現陽性の場合に,化学療法+免疫チェックポイント阻害薬の選択が可能となった。また,BRCA1/2病的バリアントを有する症例においてはPARP阻害薬が適応となる。 2019年からは,個々の患者のがん組織で多数の遺伝子変異を同時に調べ,その変異に合わせた治療法を選択するがんゲノム医療が行われるようになった。これは,がんや患者の個体差を集団で評価し,平均的な効果に基づいて治療法を選ぶ従来① 遠隔転移を伴う進行・再発乳癌は,治癒が困難であり,治療の目的は生存期間の延長,病勢進行に伴う機能喪失や症状発現の回避・遅延,出現している症状改善,高いQOLの維持である。② 進行・再発乳癌の治療は薬物療法を主体とした集学的治療が基本となる。③ ガイドラインでは転移・再発乳癌の一般的な治療方針は示されているが,高齢者や中等度以上の併存症を有する症例,重複癌を有する場合など,臨床試験におけるデータが比較的乏しく,治療方針が確立されているとはいえない場合もある。④ 新規抗癌薬,コンパニオン診断薬,ゲノム検査等が次々と開発されている。医療者には最新の状況を把握し,臨床に役立てていく姿勢が求められる。予後,集学的治療,個別化医療,多職種,shared decision making,advance care planning,緩和医療2.乳癌の治療体系/B.進行・再発乳癌治療のプランニング 211学びのポイントキーワードB.進行・再発乳癌治療の プランニング

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