診断・内視鏡治療解説50 各 論 表在性非乳頭部十二指腸上皮性腫瘍に対するEMRやESDによる内視鏡治療時においては,術後潰瘍底に胆汁や膵液,腸液が曝露することによって術後に穿孔や出血などの偶発症を引き起こすリスクが高いと報告されている[1—3].内視鏡治療時の偶発症予防として,種々の方法が報告されているが,それらの有用性については明らかになっていない.そこで,表在性非乳頭部十二指腸上皮性腫瘍に対する内視鏡治療時の偶発症予防が必要かというCQに対して文献検索を行った.PubMed:83編,Cochrane:4編,医中誌:111編が抽出され,1次スクリーニング,2次スクリーニングを経て,7編の観察研究および症例集積が抽出された[4—10].これら7編の報告から具体的な偶発症予防の方法とその成績について定性的システマティックレビューを行い,さらに対照との比較がなされていた4編を用いてその有効性について定量的システマティックレビューを行った[4—7]. 抽出された7編において偶発症予防の具体的な方法として,クリップ/糸付きクリップやエンドループ[4—7,9],Over—The—Scope Clip(OTSC)を用いた縫縮[8,9],あるいはポリグリコール酸(PGA)シートによる被覆[4,7],腹腔鏡補助による漿膜側からの補強(いわゆるD—LECS)[10]が報告されていた.これらの偶発症予防を行った計514例の後出血率は3.9%(95%CI:0.0—15.8),遅発性穿孔率は1.8%(95%CI:0.0—4.0)であった[4—10](表1). 次いで,対照との比較がなされていた4編について有効性を明らかにするために定量的システマティックレビューを行った.これらの報告では偶発症予防の方法として,内視鏡的な粘膜縫縮あるいはPGAシートによる創部の被覆が行われていた.偶発症として後出血および遅発性穿孔の発生率をアウトカムとした.全体の偶発症発生率は縫縮を行った群で有意に低くリスク比は0.19(95%CI:0.10—0.38,p<0.01,I2=0%)であった.偶発症の内容別に見てみると,後出血は縫縮を行った群で有意に発生率が低くリスク比は0.14(95%CI:0.06—0.33,p<0.01,I2=0%)であった.遅発性穿孔は縫縮を行った群でリスク比は0.39(95%CI:0.12—1.32,p=0.13,I2=0%)であった.出版バイアスについては研究数が少ないため統計学的解析での評価は困難であった[11]. 過去の報告[1—3]では,十二指腸ESD後の後出血の割合は3.4—12%,遅発性穿孔の発生割合は1.0—14.3%と報告されているが,今回のシステマティックレビューにおいては種々の偶発症予防を講じることで偶発症の発生が有意に減少していた.今回抽出された報告はいずれも後ろ向きの研究で,RCTなどの質の高い研究は見出せなかったが,定量的システマティックレビューではそのリスクは約84%減少するという結果であった.一▼ステートメント 十二指腸EMR,ESD施行時に粘膜縫縮やPGAシートによる創部の被覆を含めた偶発症の予防を行うことを弱く推奨する.推奨度:行うことを弱く推奨する 合意率:100%(23/23) エビデンスの強さ:C表在性非乳頭部十二指腸上皮性腫瘍に対する内視鏡治療後の偶発症予防は推奨されるか?CQ5
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