v 希少がんとは疫学的に年間の罹患率が人口10万人当たり6例未満の癌を指す.その希少さゆえにエビデンスが不足しており,日常診療上問題になることが多い.各々の希少がんに罹患する可能性は低いわけだが,院内がん登録に基づいた調査によれば希少がんの定義を満たす癌はすべての癌の15%にのぼるとされており,ヒトが何らかの希少がんに罹患する可能性は決して低いとは言えない.したがって,希少がん対策はわが国のみならず世界中の癌診療における大きな課題である. 希少がんの問題点として,診療経験の少なさゆえに病理診断に難渋する場合がある点,手術療法においては切除範囲や郭清範囲についてのエビデンスが少ない点や稀にしか行われない手技を必要とする場合がある点,薬物療法においては開発治験の対象となりにくく,臨床試験によるエビデンスが存在するレジメンが特に高次治療において稀である点などが挙げられる.各担当医が時に症例報告も含めた文献検索を行って何らかの判断をしながら手探りで診療をすすめることになりがちで,あらかじめこうした検討が系統的になされていてその結果がエビデンスレベルの高さと共に記載されたもの,すなわちガイドラインがあれば,臨床の場では大いに役立つと思われる.また,われわれ日本人はこれまで国民皆保険という恵まれた制度の恩恵を受けてきたが,昨今のように非常に厳密にこれが適用されると保険収載されていない治療の実施はむずかしい.希少がんにあらゆる局面で対応できるように手技や処方が保険収載されているわけではないので,結果として希少がん診療においてはこの観点からも困惑する場面があり,こうした場合にもガイドラインは何らかの道しるべになるものと思われる. このような背景から,がん対策推進総合研究事業「希少癌診療ガイドラインの作成を通した医療提供体制の質向上(2017年度~2019年度)」では希少がんのガイドライン作成をもっとも重要な使命としてきた.私は研究代表者として,消化器外科医でありながら脳腫瘍や泌尿器科領域のガイドライン作成を先行させていたが,教室の手術件数の動向からも様々な調査からも,十二指腸癌は近年増加傾向であると感じていた.胃癌のスクリーニングに内視鏡が用いられるようになり,多くの内視鏡医が乳頭部まで観察してくれるので,比較的早期の病変が見つかる契機となっているように思われた.十二指腸は消化管ではあるが,外科治療においては膵臓や胆道に触れざるを得ない複雑な解剖学的位置にあることから,和歌山県立医科大学の山上裕機教授に相談させていただいたところ,すぐに日本肝胆膵外科学会の山本雅一理事長(当時)とご相談いただき,日本胃癌学会と共にガイドラインを作成するお許しをいただいた.また,十二指腸は厳密に言えば小腸の一部であることから,小腸腫瘍の取扱い規約やガイドラインの編纂を進めておられる大腸癌研究会の橋口陽二郎ガイドライン委員長とも相談し,十二指腸癌の診療ガイドラインを別途作成するお許しをいただいた.山上教授には引き続き総括的な指導をいただきつつ奈良県立医科大学の庄雅之教授に作成委員長をお願いし,両学会から推薦を受けた比較的若いメンバー構成で2018年8月16日に東京で行われた第1回の作成委員会を皮切りに作成が開始された.以後,領域に分かれての小委員会を除いて9回にわたる作成委員会が開催され,エビデンスが少ない希少がんというハンディにもかかわらずMinds診療ガイドライン作成マニュアルに則った方法でこのような立派なガイドラインが出来上がった.まずは庄委員長以下,ガイドライン委員の先生方に深く感謝申し上げる次第である.序 文
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