vii 十二指腸癌(乳頭部癌を除く)は消化器癌の中でも希少がんに属する疾患である.しかし,日常診療においては遭遇する機会が少しずつ増えている印象がある.実際,当委員会で実施した直近10年の手術症例に関する全国調査の結果からも経年的に増加していることが示されている.希少がんゆえに明確な標準治療といえるものはなく,治療計画も立てにくいのが現状である.また,十二指腸の解剖学的特性から診断,治療においてはいくつかの難しい側面がある.診断においては,内視鏡診断が主になるが,内視鏡技術の進んでいるわが国においても,施設間格差も含めて適切な診断が必ずしも容易でない場合もある.一方,治療においては,外科手術,内視鏡治療,薬物療法,放射線治療,あるいはそれらの組み合わせを含めて様々な選択肢がある.また,個々の治療法の必要性,妥当性の判断や検証は難しいことも多い.実際,手術では至適術式やリンパ節郭清範囲の決定は必ずしも容易ではない.また,薬物療法においては,ゲノム医療が進む中でも,術後補助療法や進行例・再発例に対する治療レジメンの選択もしばしば困難である. 今回,がん対策推進総合研究事業「希少癌診療ガイドラインの作成を通した医療提供体制の質向上」における研究代表者であり,日本胃癌学会理事長でもあられる名古屋大学 小寺泰弘教授ならびに日本肝胆膵外科学会前副理事長,和歌山県立医科大学 山上裕機教授が主導され,両学会の支援の下,十二指腸癌診療ガイドライン作成委員会が発足した.委員会発足の背景には,希少疾患とはいえ,日常診療においては決して稀ではなく,臨床現場にガイドラインのニーズも少なからず存在していたと思われる.そのような中,小寺,山上両教授の強いリーダーシップの下,2018年8月に両学会からの推薦を受けた新進気鋭の若手を含むメンバーが全国から招集され,私が委員長を拝命することとなった.実際の委員会メンバーは,外科では上部消化管と肝胆膵,内科では消化管内視鏡診断・治療,化学療法,放射線治療,もしくは病理を専門とされており,その専門領域は多岐にわたり,互いに初めて出会うメンバーも多かった.また,私も含め,ガイドライン作成に不慣れな委員も比較的多く,委員会の初期の頃は手探りの状況であったが,Minds診療ガイドライン作成マニュアルの勉強からはじめ,少しずつその方法に習熟していった.多忙を極める各委員であったが,できる限り対面でのコミュニケーションを大切にしつつ,定期的な委員会の開催毎に具体的な目標をもって回を重ねていき,徐々に議論が深まっていった.しかし,COVID—19感染症の流行,蔓延によって委員会の延期,対面からオンライン委員会への移行と,思わぬ事態も途中発生した.できる限り遅滞なく作業を進めてきたものの,工程の遅れが生じたことは否めない.しかし,実際のガイドライン作成の過程では,各委員は極めて真摯に,精力的に参画していただいた.この場をお借りして深く感謝申し上げたい.議論が白熱し,結論を得にくい場面も少なくはなかったが,初版を上梓するにいたったことはまさに感無量である.また,ガイドライン作成過程において行なった文献検索を元に,各委員,グループで数編のシステマティック・レビュー論文が執筆できた.いずれも臨床的価値のある論文であり,大きな成果であると思う.また,本委員会ではガイドライン作成と並行して,外科治療に関する全国調査を行ない,論文発表を予定している.これらの委員会としての活動の成果を今後のガイドライン改訂作業にも組み入れていきたいと考えている. 初版である本ガイドラインは,エヴィデンスが極めて限られた中で作成されたことは疑いなく,今後様々なご批判をいただきたい.また今後は,データの蓄積や医療の進歩に即した,継続初版の序
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