Ⅱ 脳腫瘍の分子診断44 第2部 脳腫瘍診断・病理カラーアトラス 1 分子遺伝学的解析A.序論 2021年に改訂されたWHO中枢神経系腫瘍分類第5版(以下,WHO 2021)では,前版である改訂第4版により初めて導入された分子診断がさらに取り入れられ,グリオーマを中心に分類が大きく再編された1)。これは,2016年に結成されたcIMPACT‒NOW(the Con-sortium to Inform Molecular and Practical Approaches to CNS Tumor Taxonomy,以下cIMPACT)の提言をほぼ全面的に採用した結果である2‒8)。cIMPACTはWHO分類とは独立した組織であり,最新の研究に基づく分子診断とそれに基づく分類法を提唱して,将来のWHO中枢神経系腫瘍分類改訂に向けての方向性を提案する目的で作られた9)。cIM-PACTの提言も踏まえて,WHO 2021では組織病理所見のみならず好発年齢や部位なども考慮され,より腫瘍の生物学的特性に即した分類となったうえ,各腫瘍型を記述した項目の最後にBoxの中にEssential and Desirable Diagnostic Criteriaが示されており,診断基準がより明確になった。WHO 2021では統合診断(integrated diagnosis)が正式に採用され,病理組織診断,悪性度,分子検査情報を階層化したうえ,これらを統合的に勘案して診断を決定する方法が確立された。一方では,多くの腫瘍型で分子情報が統合診断において決定的な役割を果たすようになった結果,脳腫瘍の診断には分子検査が事実上必須となり,分子診断を実臨床にどのように取り入れていくかは大きな課題となっている。また,脳腫瘍の分類と診断基準はWHO中枢神経系腫瘍分類改訂のたびに大きく変更が加えられており,将来的にもさらに再編されることが予想されている10)。 今回の改訂においては,グリオーマが成人型と小児型に明確に区別されたことが大きな特徴である。後述するように,成人型はIDH変異と1p/19q codeletionの有無により3型に整理された。その結果,astrocytomaの診断にはIDH変異の存在が必須になり,逆にglioblastomaではIDHが野生型であることを示すことが必要になったため,IDH変異の検査はグリオーマの診断には絶対的に必要となった。さらに悪性度分類にも一部分子分類が導入され,分子診断なくしては成人グリオーマの診断・悪性度分類は不可能になった。 一方小児型のびまん性膠腫は低悪性度と高悪性度に分類され,さらに小児に好発する限局性のastrocytomaとglioneuronal and neuronal tumorも別に分類された。これらはさらに多くの腫瘍型に分類され,多くの場合は診断基準に遺伝子所見が含まれる。特にWHO 2021においては,後述するゲノムワイドDNAメチル化解析(以下メチローム解析)に基づくメチル化分類が事実上採用され,小児型のグリオーマの中には確定診断にメチローム解析が必須となる腫瘍型もある。 WHO 2021においては新たにNEC(not elsewhere classified)という概念が導入された。
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