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甲状腺腫瘍の病理診断19甲状腺腫瘍の遺伝子異常 甲状腺腫瘍の組織分類は形態学的に定義されるが,各腫瘍のドライバー遺伝子の異常が考慮されている。甲状腺腫瘍の病理診断のみならず,治療法の選択や,分子標的薬の適応においても遺伝子異常の知識が重要となっている。甲状腺濾胞細胞由来の高分化癌の大部分はドライバー遺伝子により2つに大別されることが明らかになっている。濾胞癌をはじめとする濾胞構造を示し膨張性に増殖して被膜を伴う腫瘍はRAS系腫瘍と呼ばれ,N‒/H‒/KRAS変異が高頻度にみられるとともに,PAX8::PPARG再構成などがみられる。RAS系腫瘍には被包化された濾胞型乳頭癌も含まれ,ヨウ素代謝・ホルモン関連遺伝子が発現され,分化がよく保たれていると考えられる。一方,乳頭癌には高頻度にBRAF p.V600E変異とRETやNTRKの融合遺伝子が互いに排他的にみられ,BRAF系腫瘍と呼ばれる。BRAF系腫瘍は乳頭状構造と典型的な乳頭癌の核所見を示し,ホルモン分化は相対的に悪い。NIFTPは基本的にRAS系腫瘍とされ,BRAF p.V600Eが検出されればBRAF系腫瘍である濾胞型乳頭癌が考えられる。 腫瘍の悪性度は,ドライバー遺伝子に加えて生じる遺伝子変異が重要である。TP53,PIK3CA,PTENおよびTERTプロモーターの変異などが高リスクの変異であり,高異型度分化癌や低分化癌,さらに未分化癌でより頻度が高くみられる。膨大細胞腫瘍(好酸性細胞腫 第8版甲状腺癌取扱い規約の組織学的分類は,2017年のWHO分類第4版を受けて改訂されたが,境界病変などで相違点があった。境界病変は北米での過剰診断,過剰治療を防ぐために導入された概念であるが,本邦では過剰診断は問題となっていないため採用されなかった。第9版の組織学的分類は,原則的にWHO分類第5版に沿って改訂されている。これに伴って甲状腺腫瘍の発生や進行に関わる遺伝子異常の記載が加えられ,遺伝子異常を重視して組織学的分類の一部が変更され,腫瘍の分化度や悪性度の観点から分類項目が並べられている。腺腫様甲状腺腫は,WHO分類では濾胞結節性疾患への名称変更が提唱され良性腫瘍にいれられているが,本分類では名称変更せずに腫瘍様病変として扱われている。第8版で採用されなかった境界病変が,低リスク腫瘍として良性腫瘍と悪性腫瘍の間に組み入れられている。従来の濾胞腺腫と被包化濾胞型乳頭癌の一部が低リスク腫瘍に再分類される。ただし,濾胞性腫瘍の被膜浸潤と血管浸潤の疑い所見を明示し乳頭癌の核所見をスコア化するとともに,第8版と第9版の診断名の併記を許容することにより,従来との整合性を図っている。好酸性細胞型の濾胞腺腫と濾胞癌は,それぞれ膨大細胞腺腫と膨大細胞癌に名称変更され独立して扱われる。篩型乳頭癌は篩状モルラ癌に名称変更され,その他の腫瘍として独立して扱われる。低分化癌と同様の悪性度を示す腫瘍として,高異型度分化癌の概念が付記されている。細胞診報告様式は組織分類の変更に合わせて微修正されている。ⅣⅣ.甲状腺腫瘍の病理診断

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