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3章Q&A45Q5胃がんはどこに転移しますか?Aの大規模調査の結果から,世界保健機構(WHO)の国際がん研究機関は,ピロリ菌を胃がんにおける明確な発がん因子に指定しました。 では,ピロリ菌を除菌することで,胃がんを予防することができるのでしょうか? 深瀬和利先生らは,早期胃がんに対する内視鏡治療が行われた544例を対象に,研究参加者を無作為に除菌する群と除菌しない群に分け,1年毎に3年間胃内視鏡検査を施行して新たな胃がん発生の有無を検討しました。結果,除菌した群から9例,除菌しなかった群から24例の胃がんを認め,除菌した群の方において胃がんの発生が有意に抑制されたことが明らかになっています。ピロリ菌の除菌により,胃がんの発生は3分の1以下に抑制され,除菌を行うことによる胃がん抑制効果が認められる結果となりました。 こうした結果から,現在では内視鏡的に慢性胃炎を認める患者に対するピロリ菌除菌が保ほ険けん収しゅう載さいされており,胃がん予防のためにピロリ菌除菌を行うことが標準的になっています。一方,ピロリ菌除菌をすることで,胃がんの発生率は抑制されますが,ゼロにはなりません。除菌をしても胃がんになる人は一定数いますので,除菌後も胃がんの早期発見のために,胃内視鏡検査を受けることが大切です。 胃がんの転移形式は大きく分けて3つあります。リンパ行性転移,血行性転移,腹膜播種性転移です〈3)転移:11ページ参照〉。 リンパ行こう性せい転てん移いとは,粘膜下層まで浸潤した胃がんが胃壁内のリンパ管に浸潤し,リンパの流れに乗ってリンパ節に運ばれ,そこで転移を形成したものです。リンパの流れは胃の周囲から動脈に沿って大動脈へと向かいます。さらにそこから胸管という太いリンパ管に合流し,左の鎖骨の裏側にある太い静脈に注ぎます。がんの進行に伴い,リンパ節転移もその流れに沿った部位に形成されます。胃の周囲から大動脈の手前までの腹部のリンパ節は領りょう域いきリンパ節せつと定義されていて,手術で取り除くことが可能です。それより遠くのリンパ節は遠えん隔かくリンパ節せつとされ,遠えん隔かく転てん移いの一つとして扱われます。 血けっ行こう性せい転てん移いとは,粘膜下層まで浸潤した胃がんが胃壁内の静脈に浸潤し,血液の流れによって全身に広がり,遠い臓器に転移を形成したものです。胃の静脈はほとんど門脈という太い血管に流入し,肝臓に注がれます。肝臓を通り抜けた血液は全身の循環に回ります。したがって胃がんの血行性転移は肝臓に起こることが最も多く,次いで,肺,骨(骨こつ髄ずい),脳,副ふく腎じんなどです。少数の肝臓への転移を除いて手術で転移巣を取り除くことはできません。 腹ふく膜まく播は種しゅ性せい転てん移いとは,胃壁の外まで浸潤した胃がんが胃壁から遊離して腹腔内

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