2.膠芽腫の予後因子 Report of Brain Tumor Registry of Japan(2005—2008)によれば,膠芽腫の5年生存割合は16%程度である1)。Curranらは,米国Radiation Therapy Oncology Group(RTOG)の臨床試験に登録された1,578例の悪性神経膠腫の背景因子と治療因子をrecursive parti-tioning analysis(RPA)によって分析した。予後に影響する因子として,組織型(grade),年齢,手術摘出度(亜全摘vs. 部分摘出),術前の全身状態(Karnofsky performance status:KPS,mental status,symptomatic time),照射線量,術後の全身状態を挙げている7)。RTOGはさらに膠芽腫に絞って症例を追跡し,1,672例について解析した結果を2011年に発表した8)。この解析ではオリジナルのRPAクラスⅤとⅥを新しいクラスⅤにまとめて単純化した結果,①年齢,②術前の全身状態(KPS),③手術摘出度,④術後の全身状態,の4項目のみでの分類となっている(図1)。RPAクラスⅢ,Ⅳ,Ⅴの各群における生存期間中央値は,それぞれ17.1カ月,11.2カ月,7.5カ月であり,各群間で生存期間は統計学的有意差がある8)。 近年は腫瘍の遺伝子解析による予後因子に関する報告も多く,その代表的なものとしてはDNA修復酵素であるO6—methylguanine—DNA methyltransferase(MGMT)をコードするMGMT遺伝子のプロモーター領域メチル化と予後との相関が挙げられる。MGMTはDNAアルキル化薬(ニトロソウレア系薬剤,DNAメチル化薬)によるDNA修飾を修復する酵素であるが,その遺伝子のプロモーター領域にCpG—islandがあり,ここがメチル化されると蛋白発現が抑制される。Estellerらはカルムスチン(BCNU)の治療を受けた神経膠腫患者において腫瘍DNAを解析し,MGMT遺伝子プロモーター領域のメチル化が化学療法後の腫瘍の縮小と,全生存期間および無増悪生存期間の延長に相関していることを報告し,MGMT遺伝子プロモーター領域のメチル化が他の影響を受けない独立した予後膠芽腫細胞の核には,クロマチンの増量,大小不同,多核,巨核があり,核分裂像も多数認められる。大小の壊死像があり,壊死巣周囲の核の柵状配列(palisading)は特徴的な構造である2)。その臨床経過によって,前病変なく発生する原発性膠芽腫(primary glioblastoma)とgradeⅡやⅢの神経膠腫から悪性転化するかたちで膠芽腫と診断される続発性膠芽腫(secondary glioblastoma)に区別され,前者はやや高齢者に多い傾向がある2)。病理形態学的に両者の鑑別は困難であるが,遺伝子異常のパターンをみるとかなり明確な違いがあり,特にクエン酸回路に関与する酵素であるisocitrate dehydrogenase 1/2(IDH1/2)をコードするIDH1/2遺伝子の変異は原発性膠芽腫では稀で,続発性膠芽腫の多くでみられることが近年明らかになっている3,4)。 膠芽腫は標準治療が可能な患者においてさえ,生存期間中央値が20.0カ月であり,ほぼ治癒不能な疾患である1)。長い間,術後放射線治療が生存期間を有意に延長させる唯一の治療方法であり,化学療法は生存期間延長に寄与しない,あるいはわずかに延長させるだけであるとされてきた5)。しかし,2005年に発表されたランダム化比較試験において,テモゾロミド(TMZ)の放射線治療との併用とその後の維持療法の有効性が認められ,TMZ化学療法が広く行われるようになった6)。総 論 171
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