本ガイダンスの源流は,2008年に発出された「大腸がん患者におけるKRAS遺伝子変異の測定に関するガイダンス第1版」にさかのぼる。2008年は,本邦で抗EGFR抗体セツキシマブが承認された一方で,世界的には抗EGFR抗体の初期耐性にKRAS遺伝子変異が関与することが報告され始めた時期であり,当時保険適用前であったKRAS遺伝子検査をどのように取り入れるか明らかにすることが求められていた。第1版の発出後,K—RAS遺伝子検査が保険適用となり,以降,本ガイダンスは新たな検査法やエビデンスが登場するたびに改訂を行い,検査法の普及や承認に寄与してきた。 本ガイダンスの目的は,まず大腸がん診療における遺伝子関連検査等に関わる臨床医や検査担当医に対し,現在保険適用されている検査をどのように実施し治療に反映するのが適切か,これらの検査の基本的要件を明らかにすることである。さらに新規検査技術の現状と今後の展望について情報を提供することを目指しているため,現状で保険適用されていないが科学的に有用性が検証されている検査についても推奨度を記載し,その意義を解説することとした。第5版では,2022年3月に保険適用となったHER2検査をはじめ,第4版発刊時より新たに明らかとなったエビデンスを取り入れている。 本ガイダンス改訂版では,大腸がん診療において治療選択または予後予測に関わる遺伝子異常等の検査に関して,複数の研究グループから一貫した報告が確認された場合に基本的要件を設定した(表1,図1)。それぞれの各要件に対し,委員がvotingを行い,推奨度を決定している(表2)。各要件の推奨度は,各検査におけるエビデンス,検査を実施した場合に想定される患者が受ける利益,損失のバランスをもとに決定され,各検査の本邦における保険適用状況は考慮していない。Votingにより70%以上の同意が集約された場合はそれを全体の意見とした。全ての推奨度で70%以上の同意が得られなかった場合は,結果を公表した上で再度votingを行い,votingによりStrongly recommendedが70%以上を満たさずStrongly recommendedと Recommendedの合計が70%以上の場合はRecommendedとした。また,本文以外に基本的要件と直接関連する情報は「コメント」に,基本的要件に直接は関連しないが基本的要件の周辺情報として必要と思われる情報は「サイドメモ」に記載した。さらに,現在開発中の検査技術についても現状と展望を記している。なお,日本臨床腫瘍学会におけるガイダンスの定義,各検査の保険適用状況については,備考欄を参照されたい。xiiiはじめに
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