HER2はEGFRチロシンキナーゼファミリーに属する185 kDa膜貫通型糖蛋白質受容体チロシンキナーゼであり,ERBB2/HER2遺伝子は17番染色体長腕に位置する。HER2には内因性のリガンドが存在しないが,細胞外ドメインにリガンドが結合したほかのHERファミリー分子とのヘテロダイマーを形成することで細胞内チロシンキナーゼドメインの自己リン酸化を介して活性化し,下流へシグナルを伝達する。下流のシグナル経路としてはEGFRと同様にRAS/RAF(MAPK)経路,PI3K/AKT/mTOR経路などが存在する。これらのHER2経路は正常組織では細胞分化,増殖,維持に重要な役割を果たす一方,大腸がん組織では機能亢進によりがんの増殖,アポトーシスの抑制,分化,転移などに関与している(図1)1—3。 大腸がんにおける免疫組織化学染色(IHC)によるHER2過剰発現,in situ hybridization(ISH)法や次世代シークエンサー(NGS)によるHER2増幅などのHER2陽性の頻度は,各報告により検出方法の違いはあるものの2~4%とされる(表1)4—8。左側結腸および直腸原発腫瘍に多くみられ,RAS/BRAF野生型の腫瘍で頻度が高い(RAS/BRAF野生型では2.1%~5.4%,RAS/BRAF変異型では0.2~1.4%)が,RAS/BRAF変異との相互排他性はない9,10。本邦から報告されたIHC/Fluorescence in situ hybridization(FISH)を用いた370例の後ろ向き研究では,HER2陽性が全大腸がんの4.1%,RAS/BRAF野生型に限ると7.7%と報告された8。 HER2陽性を認める乳がん,胃がんでは,中枢神経系への転移が多いことが報告されているが11,12,大腸がんにおいても同様の傾向が報告されている13。また,女性患者では卵巣転移が多い可能性が報告されている14。305.1 背景大腸がんとHER2経路HER2陽性大腸がんの頻度と臨床学的特徴5HER2検査
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